銭湯に通うように
今年見つけた居心地のいい場所の話。
JR中央線の高円寺に、畳に座って本を読める本屋があると知ったのは、
同人誌界隈のフォロワーがXでリポストしたときだった。
その時は、その場所で同人誌即売会をやるというもので、
高円寺なら行きやすい、どんなもんかと12月28日に行われた第1回目に一般客として遊びに行った。
金物屋の二階であり、入口は商店街から小道に入らないといけない上に階段を上がり切るまで店内の様子が見えないので、あらかじめ存在を知らないと見つけにくい。
靴を脱いでロッカーに預け、鍵になっている木札を店員に預けると、電話コードのようにくるくるとしたビニール製の腕輪が引き換えに渡される。
スーパー銭湯のようだ。
最初に払う入場料は550円だが、これはミニマムチャージで、本屋内で販売している書籍やクラフトコーラを購入する際に、その分が充てられる。
750円の文庫本を買うなら後は200円払えばいいのだそうだ。
参加サークル数は8と今までになく小規模で、文机のようなローテーブルで店を構える人、畳に敷物を敷いて売り物を広げる人、中にはコタツに入っている人もいた。
売り物に目線を合わせるには自然とこちらもお尻を下げることになる。
あんまりぐいぐい話し込まれるのも気疲れしそうと思っていたが、皆様イベント慣れされているのか、見本誌を拝見していても売り込みには来ない。ゆっくりじっくりと目を通せる。
情報系同人誌でお見掛けするサークルもあれば、文芸を出されているサークルもあり、ジャンルにそこまで偏りはなかった。
年末で外が寒かっただけに、この年季の入った木材で作られた天井の高い、空調の効いた空間に堂々と座っていていいというのがなんだかほっとするようないい雰囲気だった。
あとに予定も入っており、話し込むような知り合いがいたわけではないので、同人誌1冊とクラフトコーラを購入して、その場を後にした。
このイベントの2回目が1月25日に開催されると知り、申し込んでみたら当選したので、のこのこと出かけた。
サークル参加費は格安で、しかも帰る時に払えばいいという。
くじ引きで小さなちゃぶ台のついた席になった。
大きなイベントと違ってそんなにお客さんもこないだろう、座ってのんびり本が読めるだけで最高だぜと思っていたが、
出展者の知り合いの方が来て、私にも気さくに話しかけてくれたり、
前回出展した方が一般客として来てくれたり、
イベントのことは知らなかったけど、この本屋に興味を持ってきた人がいて、
なんだかんだおしゃべりを楽しむ時間も多かった。
1つのサークルに対してこんなにおしゃべりにかけられるイベント、近年なかなかないぞ。
私が並べるのは食べ物にまつわる作品が多いから、
おいしいものの情報を教えてくれる人も結構いてありがたい。
途中抜けして、
店主にお勧めされたワンタンメンの店で昼食を取り、
アメリカンなハイカロリーごつごつクッキーを手にれることもできた。
出展者同士もすべてのサークルに挨拶して、頒布物を見て回れる規模だ。
イベントの最後には、出展者全員で「おばけキャッチ」を遊んだ(なんで)
出展者の中に、私がおばけキャッチ大好きであることをnoteで読んで知ってくれている人が2人もいたのと、
おばけキャッチがたまたま私の鞄に入っていたので(……たまたま鞄に入っていた?)
私が借りたちゃぶ台がそのままバトルフィールドとなり、全員おばけキャッチは初めてだったにもかかわらず、「これおもしろい」「もう1回遊びたい」という声が出るくらい、けっこう盛り上がった。
魔王は自分がプレイしなくても、おばけキャッチを楽しんでくれる人を見るのが幸せなので、ニコニコしちゃった。
この同人誌頒布イベントは3月4月もこまめに開催されるようだ。店主的には毎週やりたいくらいだという。
ぜひまた出展したいが、この楽しさを新規の人にも体験してほしいから、申し込むのはもう少し回数を経てからの方がいいかなと、第1回目・2回目の参加者は口々に言うのだった。
そんな縁で、お店のTwitter(X)のアカウントをフォローし始めたわけだが、
この本屋、普段は商業本や同人誌の他にボードゲームがいくつか置いてあって、そこで遊んでいいらしい。
後で聞いたら、ボードゲーム漫画の第一人者でボードゲーム界隈では有名なKさんと店主が仲良しらしいのね。Kさんのアドバイスで置いたのだそうだ。
「おばけキャッチも置いてください!」
と絡んだら、反応をいただけたので、店にプレゼンしに行くことにした。
イベントで遊んだ時は、店主はもう帰っちゃっていなかったから、どういうゲームか知ってもらってあわよくばお店に置いてもらおうという魂胆だ。
プレゼンしたあとも、しばらく店主の今後やりたい構想を聞いたり、店内の本を眺めて過ごす。
イベント時以外で入店したのは初めてで、平日夕方ということもあり、お店には静かな時間が流れていた。
すでに置かれているボードゲームを見て、
「あ、これ、国内のボードゲームデザイナーの作品ばかりだ」
と気づく。カタンとかカルカソンヌのような、ヨーロッパの有名なゲームではない。
あー同人誌とか置いてる本屋だから、アナログゲームもそういうコンセプトのじゃないとだめだったか、おばけキャッチは違うか……?
やべぇ、ケツ持ちしているKさんの留守を突いて、恥も知らずしゃしゃり出たチンピラになってんじゃねぇか。
私とKさんは相互フォローだけど、ちゃんと挨拶したわけではなく、お顔は一方的に存じ上げてるに過ぎない。
怒られるかもしれん……とびびって、そろそろ帰ろうかと思っていたら、
遅番バイトの女の子がやってきた。
「Bちゃん、ちょっとひじきさんとおばけキャッチで対決して」
店主が命じる。
バイトってそんなこともさせられちゃうの?
魔王と対峙する何も知らないBさん。
でも、初めてにしてはなかなかセンスがあり、ちゃんと数枚取れていて、
終わる頃には「師匠!師匠!」と呼んでくれるようになった。
他のゲームもやりますかと、流れでそこにあった中で唯一やったことがあった「ワードスナイパー」を遊ぶ。
お店にあるゲームは、お客さんに訊かれて説明する必要があるから、ちゃんと説明を聞いて体験しとかないとね(店員が客と遊ぶことについて気にする人への予防線)
店主が帰った後も、しばらく二人で遊び、なんだかんだ気持ちよくおしゃべりが続いた。
Bさん、コミュ力が高いな!
その2日後、高校の同級生のKさんと吉祥寺でパンケーキを食べてから、高円寺にクッキーを買いに行った。
イベントの時にも購入したプレッツェルやロータスが刺さっているアメリカンなクッキーである。本屋とは同じ建物の1階に店を構えている。Kさんがそういうお菓子を好きなのは知っていたので、紹介したらぜひ買いに行きたいと食い気味にいう。
そろそろお茶の時間で珈琲も飲みたいねという気分だったので、
ここの2階にある本屋さん、コーヒー持ち込んで休んでいっていいみたいよと言葉巧みに連れ込むことにした。
そうしたら、Bさんがいた。
今日はバイトではなくオフで本を読みに来たらしい。
バイトじゃなくても遊びに来たくなる職場っていいね。
挨拶をして、コタツ席に落ち着く。
Kさんが置いてあるボードゲームに興味を示したので、ワードスナイパーでも遊ぶかと思ったら、他のお客さんグループが既に遊んでいた。
そんなこともあろうかと、たまたま鞄に入っていた(たまたま鞄に入っていた?)「カタカナーシ」を取り出す。
むらくもやまの朝のパン祭りでも登場させた、お題のカタカナ語をカタカナを使わずに説明して当ててもらうゲームだ。
カタカナーシは全員に説明する番が回ってくるので、何もできないままゲームが終わるということがなくていい。
2人でも楽しい。しばらく、2人で遊んだところで、
ボードゲームをやったことがないお客さんが店主と話しながら近づいてきたので、
「一緒にやりますか?」と声をかけ、
Bさんも交えて、4人で延々と遊んだ。説明の仕方に個性が出て楽しいね。
Kさんはその場でカタカナーシをポチって、翌日さっそく遊んでいる写真が送られてきた。早い。
そして、14日
またこの本屋に立ち寄る。
ハマった食べ物を短期集中でガッと食べまくるように、
気に入った場所には、足しげく通いたくなるひじきである。
まだそこまで知られていない秘密基地のようでもあり、
平日なら土日よりはゆっくり店主と話せるだろうという思惑で、
鞄の中には、プレゼンしたいボードゲームも忍ばせた。
階段を上がり、扉を開けたら目の前に
Bさんがいた。
今からシフトらしい。
あらあら。
なんだかBさん目掛けて来た気持ち悪い客みたいになってしまったぞ。
店主とBさんと3人で、持ってきた「フォルティッシモかるた」を遊ぶ。
店主、穏やかながらBさんには親し気なからかいも入り、新たな一面を知る。
店主が帰った後は、Bさんと「エイゴダーケ」で遊んだ。
これはカタカナーシと同じシリーズのゲームで、「かしわもち」や「かなざわ」などの日本語の単語を英語だけで説明して当ててもらうのだ。
もちろんお互いに中学英語以下のブロークンイングリッシュである。苦し紛れの単語だけでも、なんとなく当たるのがおもしろい。
全然言いたい言葉が英語で出てこなくて、全部のカードが尽きるころには、普段使わない脳が熱を持ちそうだったが。
むらくもやまでも今度やりましょうね。
ゲームの合間に趣味や暮らし、好きなもの・ことの話をし、
「ステラおばさんのクッキー食べ放題に行きたいんですよね」とBさんが言ったときには
「私も行きたいと思ってました!一緒に行きましょう」と口を出かかったが、
いやいやクラブの女の子に同伴を求めるおっさんじゃないんだからと我慢した。
ただでさえ、ひと世代よりも年下なので気が付かないうちに老害を発生している可能性がある。
たいして詳しくないのに、相手が非ボードゲーマーだからってボードゲームを知ったかぶりして教えるのも、自己満足じゃないのかって、後で我に返らなくもない。
いくらなつっこく接客として楽しげに過ごしてくれていても、ここは本屋さんであり、変な接待のお店じゃなくってよ。キャッキャしてないで、わきまえてひじき。
他のお客さんが入店したので、すっと読書に戻り、閉店時間には文庫本を一冊買って退店した。
3月からはしばらく土日祝のみ営業になるらしいので、
こんな隙を見計らってのゲームとおしゃべりばかりの好き勝手はできなくなりそうだが、
迷惑にならない程度にまた行くつもりである。
居心地よかったな~。
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