天上天下花見日和

てんじょうてんげはなみのひより、と読む。
今日私が作りました。

この週末は激しい嵐ののち急激に気温が跳ね上がり、春というより初夏の陽気をもって桜の開花を迎えた。花の名所と言われるところには続々と人が詰めかけている。
桜もいいけどな、足元を見てごらんよ。これまたいろんな花が咲いてるもんだよ。
そういう意味を込めた、今回のタイトルである。

この一週間はちょっとした節目、というか切り替えの週になった。
仕事のほうは抱えていたものが一段落して部分的に後輩たちに渡せるようになり、上司と話し合ってオフィシャルに「業務幅をセーブして一旦整理しましょう」のターンに入った。担当の企画もあとは事故のないように経過をみながら進行するのみ、ひとつ受け継ぐ案件はあるものの、企画業務からはすこし距離を置くことになる。

幅を抑えるぶん、現状混線しているあれこれの手続きや運用ルールの見直しとマニュアル整備あたりが当面の命題になりそうだ。
華やかな仕事もそりゃやりたいけども、いろんな仕組みがぐらついてるせいでみんな(自分をふくむ)がイライラしてるのを目の当たりにしてきて、どうしても愚痴っぽくなってしまう空気もしんどかったし、何より来るもの拒まずであちこち首を突っ込んできたおかげで人やもののつながりがある程度見えるようになった。交通整理をやるなら今だろう。
私だからできることで、状況が必要としているはずのもの。
これをちゃんとやりきったら、すっきり次の段階に行ける感触がある。
そういう展望も含め、上司には全部正直に話した。
まどろっこしいことの嫌いな人である。忌憚のないやりとりができて、とてもありがたい。

仕事量が谷間に入ったのはある意味計画的犯行でもあって、平日ど真ん中に三連休をとって札幌に行ったりもした。妹に会う名目ではあったが彼女にも仕事があるので、一緒に過ごしたのは観劇をふくむ一日目だけ、あとはほぼ食い倒れ一人旅であった。
五年足らず前に三年間だけ住んでいたことがあるので、ある程度の土地勘とうまいもの勘はある。基本的には出入りしたことのある店へ出向き、海鮮丼を食べとろさばの焼いたのを食べ、同じカフェを連日訪ねてうまいパスタと焼き菓子とコーヒーを複数種類堪能し、唯一初めて行ったバーでは二十代の男の子たちにちやほやしてもらって上機嫌、観光地らしい観光地にはほぼ行かず、読みたかった本を籠もって読んだりと、エネルギー充填だけして帰ってきた格好である。

久しぶりに飛行機にも乗ったし。妹も新しい職場で力を発揮していて、いろいろ手を出しちゃって気がついたら業務の幅が広くなって忙しいんだがなんでだ、って状況が姉妹そっくりで可笑しくて、ならば私も頑張ってみるか、と思えたのもよかった。

戻ってきたら戻ってきたで、私がこぼしたものをカバーしてくれた同僚にお礼を言ってまわり、すぐに週末突入である。
ほとんど休暇だな。いや、札幌いる間もめちゃめちゃ仕事の連絡打ち返してたけども。
土曜はお世話になっているギャラリーに顔を出してお買い物がてらたっぷり話し込み、日曜の今日は「お土産を渡したいから」と朝からむらくもやまメンバーを呼び出してパン祭りの開催となった。
朝ならおふたりともあいてるというんだもの。せっかくご近所なんだったら、公園で朝ご飯をご一緒したいと思ったのだ。
おそらくそういう発想にいたるのが回復してきている証拠で、三人で街を歩きながら「くさむらさんが朝から活動できるようになるなんて」と感慨深げに言われたときはちょっと反省した。
ご心配をおかけしました。

それにしても、私がぼーっと暮らしているから知らないだけで、わが街にはうまいパン屋がいろいろあるのだなあと感心した。ひじきさんやまおりさんの食いしん坊センサーは性能が高く、たいてい教えてもらってばかりの私は幸せ者である。フレッシュオレンジジュースの自販機は知ってたけど、フレッシュリンゴジュースまであるなんて。パン屋のはしごに挟まるリンゴジュース、このブレなさがまた楽しい。

選びきれずにがっさがっさと買い込んで、すでに花見で出来上がりつつある井の頭公園に腰を落ち着ける。撮影はひじきさんに託し、「い、いくつ食べよう……」と幸福な苦悩を呟きながらサンドイッチやドーナツにかぶりつく。鳩に襲われながらも食べ終わったところで、ひじきさんが「カタカナ―シ」を取り出した。
カタカナーシ。
カタカナ語をカタカナを使わずに説明し、互いに当てあうテーブルゲームである。ルールはシンプル、カードのつくりもコンパクト、ただこれが一筋縄ではいかないというか、「そうきたか」というお題が満載で、なんなら途中で縛りが発生したりもする。情報系や概念をあらわす単語は説明が難しいね。
日頃文芸に励む(つもり)の三人、言い換えや例えは人並み以上に訓練されているはずだが、これがなかなか苦戦した。し、ひねりが効いて的確な説明や、素早い連想力に接すると「おおお」と新たな回路が開かれる心地がする。
私はといえば、ひじきさんの勘の良さややまおりさんが繰り出す鋭利な回答に舌を巻くばかりで、ぽややんと連想を楽しんでいるうちにカードが掻っ攫われていく大変な勝負弱さを発揮することとなった。
でもあれ、説明を考えるのも楽しかったな。幼少期、寝物語(?)に縛りしりとりをやる家庭だったので、あの感覚に近いものがあってとても楽しかった。

最高気温は二十七度に達しようかという日和、午前中にもかかわらずじりじりと炙られながらの対戦は花見の場所取りをする人々のただなかにあって異色だったのではなかろうか。
そういうちょっと変わった結界を生み出すのが、むらくもやま三人衆の面白いところである。

その後花見のはしごをするのだというひじきさんと、洗濯物を取り込むのだというやまおりさんを見送って、私はサーティワンのアイスをなめなめ公園をもう一周した。
途中、イカ焼き屋のご主人に「お客さん、アイスのおともにどうですか!」と声をかけられて思わずニヤついてしまった。アイスのおともにイカ焼きは食べないだろう。また今度行きます。
カラスノエンドウ、ヒメオドリコソウ、タチツボスミレ、ハコベ、などなど。木陰に小さな花がたくさん咲いていて、帰り道も大変目に楽しかった。

帰宅して、着ていたトレーナーを脱いだらよく日に干した洗濯物みたいなにおいがした。
やまおりさんちの洗濯物も、きっとよく乾いたことだろう。
よい一日の幕開け、からの、夕食は久々に生姜焼きとかオクラとブロッコリのおひたしとかポテトサラダとかなめこの味噌汁とか盛りだくさんにして、締めくくりまでしっかり食べたのであった。

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