欲望との対話

平日どまんなかに休みをとっておでかけしようと目論んでいたところ、急ぎ判断の必要な事案がばばばと舞い込んで気合をくじかれてしまった。

うーん。

出かけてしまったあとであれば諦めもついたのだが、昼過ぎからでいいかーとダラダラしていたのがまずかった。見ちゃったらもう無視できない。見なきゃよかった。いや、見てよかったのか。でもわたしの平穏な休日は失われた…。

と思いきや。

このままで終われない。有給消失前の消化が目的とはいえ、こんな気分で終わるのは癪である。洗濯物を片付けてシンクを磨いて時刻は15時すぎ(遅)。やりたいことも、欲しいものもたくさんあったはず。なのにメモしておかないから帰ってから思い出して「またこんど」になる。

じゃあもうとりあえず外に出て、なんだっけと思い出しながら歩くしかない。
あれこれ買わなきゃと思っていたはずだが放っておくといつのまにか忘れている。
ここで「チェックリストを作ろう」とならないところが私である。チェックリストを作ったところで、確認を忘れるのが私である。そのあたりの欠陥具合は自覚している。じゃあ今日みたいな日を活かさない手はない。

トンボが飛びはじめたのを確認しつつひとまずまちなかに出て、本屋の棚をくまなく見て回る。あ、なんか新しい本を受け入れる体制じゃないみたい。パトロール終了、次。

残暑は厳しいが雲は秋のかたち。ガリガリくんの梨をかじっていたら猛烈な早さで溶けだして、冷えた息を吐き出しながら新しくできたブックカフェの位置を確認する。へえ、ここかあ。しかし今日は見送り、次。

ちょうど味噌を切らしたばかりで、いつもの味噌屋もまださすがに開いてるだろうと足を向ける。が、店先にかかった「CLOSE」の札。しばし呆然と立ち尽くしているとお姉さんが出てきて、「どうぞ」と声をかけてくれた。
「あの、おみせ、じゃないおみそ買えますか。あ、このCLOSEってもしかしてランチのことですか?」
「そうです〜どうぞ〜」
人と話すモードじゃなかったのでめちゃくちゃ噛みながら営業確認をして、店主のおじいちゃんに味噌を詰めてもらう。
いつもの加賀粒みそと、「いつまでこの暑さ続くんだ夏ブレンド」みたいな名前のみそ。「これ、どんなみそですか」と聞いたら「甘いみそだよ」とのことだったので追加でもらうことにした。ネーミングのヤケクソっぷりと、いつもの粒みそは辛口なのでちょうどいいと思って。

そのままぶらぶら歩いて、途中の八百屋でなすときゅうりを買い、夕方5時になったのでいつもの焼き鳥屋へ。

開店直後なので店前で呼び込みをしていて、挨拶したら「はいどうぞどうぞ」と案内してくれる。さいきんカウンターの隅が定位置みたいになってしまって、瓶ビールの一杯目で「CMみたいですねえ」と言われる。はい、小中学校の給食でも同じことを友だちに言われました…。
瓶ビールを頼んだら、シャンパンを冷やすような小ぶりなバケツに氷を詰めて冷やしてくれる。 なんならどのバケツにするか選ばせてくれて、まだ見通しのいいカウンターで至れり尽くせりを満喫。
お店の人とぼんやり話しながら、焼き上がった串はすぐさま吸い込む。
うまーい。
レバー、ハツ、せせり、もも、抱き身、熊本のなすは鶏油仕上げ、白レバーにししとう。砂肝ポン酢をはさんで、貸し切りだったカウンター、二階のテーブルもみるみるうちにいっぱいに。

よかったねえ。
今日暑かったもんねえ。

さいきん客入りの波が激しいとお店の方に聞いてたので、勝手にほっとしてお勘定。

馴染みの店員さんたちに手を振って見送られ、大満足で帰路。
はて、今日はけっきょくなにがしたかったんだっけ。

この夏は突然川に行ったり毛糸買い込んでかぎ針編みしたりビーズが気になったり、なにか仕事以外のことをやろうと躍起になっていた気がする。
いまの仕事で、本来他の人が対応すべきところを肩代わりというか尻拭いすることがもう年単位で続いていて、私以外も一部のひとに過剰に負担がかかっている状態にもかかわらず謎に事業拡大しようとしている会社に愛想が尽きて「もうやめよう、やめます」と上司に話したのが三ヶ月ほど前。
いま決まっている担当案件は軌道にのるまでやります。あと一年で引き継ぎもします。そのあとのことはお願いします。他にやりたいこと(物書き)もあるし。
辞めたらどうやって食べてくのと聞かれて、接客は慣れてるからどこかで雇ってもらって、まあどうにかしますと笑顔で答えて、それ以上はなにもきかれず。

ちょっと引き止められてみたかった気もしたが、これは上司の矜持と思いやり。身勝手ばかり言っては罰が当たりましょう。

というわけで、「辞めるぞ」の気持ちのまま働いていると意欲の保たせようが難しく、己の欲をちょこちょこ満たしながら暮らしている。

本当に無茶しなくなったし、遅くまで会社に残ることも減った。それでも世界は回るのだ。
さて明日も粛々と参りましょう。
そんな休日。

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