心のなかにブルドーザー

土曜日。

朝ゆっくりしすぎて歯医者に遅刻しかけ、公園のなかを小走りで通り抜けているとシェパードにおすわりを教えているおじさんがいたり、警察が交通安全キャンペーンの会場を設営していたり、平日とくらべて人の流れが散漫なのがらしいなあと思う。
そんななか脇目も振らず突き進む私。まったく、ゆとりを持って生きていきたいものである。

歯医者のあとは電車に乗って、ずっと通っている美容室へ。私の髪は量が多い上に元気なので、少し放置するだけでびっくりするほど嵩が増える。今日も今日とて側頭部と後頭部に3ミリのバリカンを入れてもらい、すっきりツーブロックにしてもらった。
「今日も3ミリでいいすか」
「いいす！　やっちまってください」
いつものやりとりでサクサク切ってもらってたら、もう15年以上の付き合いになる美容師のMさんがおもむろに「いま、この近くで一日一杯タダでジントニック飲めるんすよ」と言い出した。
急にどうした、とよくよく聞いてみると、新しくできたクラフトジンのお店がやっているキャンペーンだという。タダほど怖いものはない、せめてちょっとくらい払わせてほしいよな、と言い合いつつ「俺も行ってきたけどみんなフツーに一杯だけ飲んで出てましたよ」と抜かすMさん。いや飲んだんかーい、と心のなかで突っ込んだが、結果これが私の背中を押した。なんか気まずい思いしてまでタダ酒飲まなくても、って思っていたけど別に気に病むことはないらしい。なんなら受け取ったらそのまま街に繰り出せばよいのだ。

というわけで日曜の昼から飲んできたぞー！

ぐるっとカウンターにきれいなビンのクラフトジンとシュッとした若者たち、
そこへへらっと現れて、スタッフの案内に従って「0円サブスク」の登録をする。
これ、今後有料化するジントニック（ジンソーダとかノンアルもある）サブスクのお試しとしてやってたらしい。なるほど、仕掛けがわかればそんなに怖くない。近所で働いてたりしたら最高にお得だが、そんなに頻繁には来ないしな……と心揺れるくらいだったので、キャンペーンとしてはなかなか悪くないんじゃないか。
ひとまず一杯、受け取って店を出る。あるきながら飲みたかったので。

10月にしてはまだまだ気温が高いが、それでもずいぶん過ごしやすい。
いかにも休日な人混みのなかを、ゆうゆうとお酒を飲みながらぶらつくなんて最高だ。
肝心のジンは、ヨモギとか色々薬草が入ってるらしく（スタッフのお兄ちゃんが慣れた調子で教えてくれたが忘れた）、たしかに香りがよくてとっても美味しかった。
サブスクとかじゃなくていいから、たまに飲むのはアリだな。いいことを教えてもらった。

その後、代々木公園でやってるという北海道フェアでも行こうかと考えていたのだが、やっぱり好物が食べたくなって蔭山樓の鶏白湯しおラーメンを食べに行った。

ランチにはすこし遅い時間だったが、さすがに土曜は並ぶな。あと、海外の人がたくさん来ていて、私の大好きないつものおじさんが「ウェイティング、アバウトサーティーミニッツ！」って説明しながら客さばきしていて大変そうだった。

ラーメンそのものはもちろん、麺を食べ終わったあとのスープにごはん入れてリゾットっぽくするのがまた最高なのだ。いつものように丼の底までぺろっと平らげたら、今日もおじさんに「綺麗に召し上がりましたね」と褒められ（？）た。
こういうひとことを欠かさないところがいいよねえ。美味しゅうございました。

それにしても、どこもかしこも人が多かった。

一人だと特にどんどん前に進みたいので、心のブルドーザーでワーッと道端によけてしまいたい気持ちになったが、これは平日休みに慣れてしまっているせいである。

長かったからな、シフト勤務生活。

さいきん仕事をしながら「私はもっと他人に興味をもったほうがいいな」と感じたので、人が多い＝観察できるものが多いとして、捉え方を変えていきたいものである。
もともとだいぶ短気だし狭量なのだ。好奇心と鈍感さのおかげで人当たりはだいぶマシになったけども。

とかなんとか言いつつ、明日日曜は極力引きこもる所存。

そういう日は必要だ。
ブルドーザーも納屋にしまっておく。