思いがけない「才能アリ」
これをお読みの皆様に今日は俳句について、問おう。
家藤正人氏なる御仁をご存知だろうか?
句会ライブなる催しをご存知だろうか?
荒川区が俳句のまちを宣言して10周年だったことをご存知だろうか?
私の答えは全てNOだ。
NOだった。12月15日までは。
何しろ、私には俳句を作る習慣がない。
だからその界隈のことは全く分からない。
ちなみに短歌も同様だ。
さあ作れと言われても全然作れない。
もちろん経験を重ねれば、俳句脳や短歌脳はしだいに出来上がってくるのだろうが、こうやって長文を何万字でも書いていいだらだらした世界で生きていると、あえてその句形で状況や気持ちを切り取って残そうという気が起きにくい。
私が作ろうとしたら情報を詰め込みすぎるか、なんとなくエモくしてごまかそうとする駄作が生まれるに決まっているというやってもいないのに先走る思い込みもあって、いままで詠む機会はなかった。
Hさんという、数年前から俳句を始めた友人がいる。
家族で俳句を楽しんでおり、お題に沿って句をひねっては定期的に応募などもしている。
私は彼女に「じゃがいも俳句」というジャンルの確立を持ちかけており、そのうちワークショップをやりたいねという構想がある。俳句のことはわからないが、じゃがいものことならチョットわかるので。
そんなHさんに俳句のイベントに誘われた。
経験者はもちろん、俳句をやったことがない初心者でも楽しめる「句会ライブ」が荒川区民会館であるのだそうだ。
句会ライブ……って何?
ライブを行うのは家藤正人氏。
これだけではピンと来なくても、
プレバトの夏井いつき先生をご存知の方は多いかもしれない。
ほとんどテレビを見ない私ですら、何かの折りに、着物を召した老婦人が、芸能人の作った俳句をはっきりばっさりした批評でズバッと赤をいれつつ、でもたしかに添削後の句が見違えるように生まれ変わった様を見かけたことがある。
家藤氏はその夏井先生のご子息であり、ご自身も俳人である。
なんだかわからなくても誘い手のことを信頼している限り、たいていの誘いは断らない私であるし、定員200名のところ抽選だったらしいが、H氏が引き当てたので、行くことになった。
で、句会ライブ……って何?
荒川区は俳句のまちを宣言して、俳句にまつわる取り組みをあれこれしているらしく、これは10周年記念イベントなのだそうだ。
荒川区民会館に行くのは初めてである。
せっかくならと、普段ほとんど乗ることのない都電のさくらトラムを早稲田から1時間えんえんと乗っていった。
参加者の年齢層は、
ご年配の方ばかりかと思いきや、確かに年齢層は高めな気がするが、小学生や20代くらいの若者もちらほらといる。
前列を陣取るのは、やはり熱心な長年のファンのようである。
というのも、ライブが始まる前はいつき組の組員同士で名刺交換をさかんにし、ライブが始まったら、今度はうちわを振り始めたのだ。
ライブ!だから、うちわか!
うちわには「生 正人」と出演者を書いたものがあるが、多くは自分の俳号をでかでかと書いているのが独特の文化のようだ。
出演者に、誰が来ているのか目に留まって覚えてもらいやすい。
遠方からこのためにやってきた人や、20年以上俳句をやっているベテランの参加者も何人もいた。
家藤氏のトークは軽快で、そんな常連にくすぐりをいれつつも、初参加者を置いて行かないような配慮もあり、客席を巻き込む形で、ユーモアを交え、ライブはなごやかに進行した。
句会ライブ、果たして何をやるのかというと
まず、家藤氏が俳句の作り方を教えてくれる。
俳句を作るのは認知症予防にもいいし、応募したらたまにモノや金がもらえる(伊藤園のお~いお茶のやつみたいな)んですよというメリットも話しつつ、
簡単に作れるのは「取り合わせ」という型で
5音の季語+12音の季語とは関係ないフレーズ
で構成する。
先に12音のフレーズを見つけてから、それに合いそうな季語をくっつけるというのがポイントで、12音の内容は誰も書きそうにないオリジナリティがあるとよい
という講義内容だった。
家藤「今日のお昼ご飯、何を食べましたか?」
参加者「カレーライスを食べました」
家藤「ほら!カレーライスを 食べました もう12音になってますよ。あとはこれに季語を付けるだけで1句できちゃいます。でもこれだとお昼にカレーを食べたカレーライスライバルがいるので、もう少し詳しく聞いていきましょう」
と実例に沿った12音の探し方、決め方の説明もあり、
ふ~んそんなもんかねぇと聞いていたら、
さあ、お手元の細長い白い紙を取り出して、とおっしゃる。
……白い紙、たしかにありますね?
1人1句作って提出してください、とおっしゃる。
提出してください?
講義を聞いた後、参加者全員が俳句を作る
そしてその中から家藤氏が選んだ特選句7句についてみんなでわーわー鑑賞しようという
それが句会ライブというものらしい。
え、作らされると思ってなかったわ~そんな強制的な、どうすんのよ。
しょうがないので、
真面目な優等生のわたくしは教わったことに忠実に従うことにした。
「カレーライスを食べました」方式で、日記みたいなことを飾らずに詠もう。
情報を詰め込みたくなるけど、我慢しよう。どうせ伝えきれないのだから。
季語は何があるか知らないから、参考資料に配られた季語一覧からあんまりかっこつけてないのを選ぼう。
こんな歴戦の猛者ばかりの200人の中の素人の1句なんて家藤氏の目からは一瞬で過ぎ去ってしまうだろう。
私は俳句の人ではないのだから、選ばれる選ばれないに一喜一憂することもない。肩ひじ張らなくていいじゃないか。
休憩をはさんで、特選7句の前に選外だけれどもよかった句についての発表があり、なるほどおもしろいなあと聞いて、
いよいよ特選句の発表と
正面のスクリーンにババーンと映し出された7句
……ん?
私の入っとるやんけ!!
ナンデ?ナンデ?
私が詠んだのは
「冬の夜わたし魔王になりました」
だ。
ほら、日記でしょ?
先週の広島のおばけキャッチ大会のことを詠んだのである。
誰も書きそうにないオリジナリティを入れましたよ、先生。
家藤氏が音読すると、会場から聞こえる笑い声。おもしろいですか?
全ての鑑賞と投票が終わるまで誰がどの句を詠んだかは伏せて、最後に発表というので、しばらく落ち着かない時間を過ごすはめになった。
他の人の句はたぶん公開しないほうがいいので控えるが、
それぞれどの句が気に入ってどういう読みをしたか発表し合う中で、
「魔王っていう焼酎があるので、飲んだくれて魔王になったのかなと思いました」
「ゲームで魔王役になったのかなと思いました」
「魔王って悪いことをしていても堂々としているので、そういう悪びれない様子が伝わってきました」
「夜って誰もいない一人の世界だから、俺は魔王だ~って気分になったのかなって思った」
といろんな意見をいただいた。
わかる~私も第三者としてこれ見たら焼酎魔王説思いつく~。
「俺は魔王だ~」の読みをしてくれたのは小学生の男の子で、後でわかったことだが、その子の句も特選7句に入っており、私はその句が気に入って投票したので、両想いだったわ。
季語の選び方も「冬の夜」が「凍星や」のようなピンポイントではなく広がりを感じさせるポイントだったかなと思いますと言ってもらって、わからないなりに背伸びしなくてよかったね!
他の句はやはり常連さんの作が多かったようだし、たしかに言葉の選び方にレベルの高さがうかがえた。
あと、こういうことを詠んだんじゃないかと想像する読み合いも、様々な視点の意見が出てきて、それによって句の印象ががらっと変わったりして、おもしろかった。
挙手による投票結果は、王道ではないから1位は狙えないけれど、刺さる人には刺さる、じわる根強い人気枠という位置づけでした。私らしいわね。
詠んだ人発表では何が魔王だったのかをお伝えし、記念品として家藤氏のサイン入り俳句手帖をいただいた。
「連れてきた俳句初めての友だちが特選七句に!なんて展開が起きるのも楽しかったし。」
とあるのは私のことですね、はい。
こうやってビギナーズラックながら思いがけずよい思いをすると、ちょっと俳句に対するハードルも下がって、つまり俳句の楽しさを広めたい家藤氏の思惑通りではあるんだけど、
先日のむらくもやまでの観劇しかり、誘われたら飛び込んでみるものですね。
俳句、祖母がけっこうしっかりめに取り組んでいたので断片的に知識はあるのだけど、ちょっとした手引きがあるだけでスッと楽しめるんですね。
返信削除それにしてもひじきさんの句は他の追随を許さなくてとても魔王らしい。
句会ライブ……って何? と同じ気持ちで読み進めました。なんだか楽しそうな催しだ! 素直に生きるだけでちょっと捻りが入ってしまうあたり、とってもひじきさん……読者方々(俳句は読むっていうのかしら)の感想がまた味わい深いですね。
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