売り上手の友

 ありがたいことに9月から新しいお仕事を請け負う運びとなり、とにもかくにもキーボードを叩いている。並行して主催するアンソロジーの編集作業もあるものだから、キー氏との親交は深まるばかりだ。

 畢竟、作業の効率を上げるためと言いながら机周りの掃除をしたり、どうでもよいファイルの整理をしたりする機会も増える。図書館で本だって借りてしまうし、ユザワヤで秋冬用の毛糸を買いもしてしまうのだ。

 夏の終わり、それは毛糸の季節の始まり。

 素直に夏の終わりを謳うにはまだ日中の気温が高すぎる気もするけれど、ひとまず暦の上では、毛糸のシーズンが到来している。夏には夏の糸があり、夏の編み物があろう。私だって編み物熱が再燃したのは酷暑ど真ん中であった。しかし、やはり未だ、編み物が盛り上がる季節といえば秋冬であるのだ。

 私の腕が拙いこともあり、夏の編み物で愛されている細くてさらりとしたコットンや綿の糸よりも、これから台頭してゆくであろう暖かなウール系の、太くて適度な引っかかりのある糸のほうが俄然編みやすい――と、そういう事情もある。

 そういう事情でウール糸がほしくなり、ユザワヤへ行き、まんまと友の会に入会して帰ってきた。だって宣伝ポスターでは「友の会メンバーならほぼ全品10%OFFだよ」と掲げながら、実際の売り場では20%とか30%とか、しれっと割り引いてくるから……。

 ほしかった糸は手袋用で、編み図からして並太糸で150m、いや手首を長めにしたいから余らせる心算で200mもあればと目星をつけて店へと繰り出し、まんまと10玉入り(540m相当)の大袋を提げて帰ってきた。だって友の会会員なら通常20%OFFのところ、同色10玉同時購入で30%OFFになるっていうから……ベーシックな黒のウールだからなんにだって使えるし……絶対無駄にはならないし……。

 この感じ、あれに似ている。色上質紙やノートを前にすると「いずれ使うものだから」とかなんとか理由をつけて、必要量の2割増しで買ってしまう、あの感覚に。

 私という人間は昔から「さあやるぞ」と手仕事のギアが入った折、素材を過剰にストックしがちだ。心配性だからではない。素材、それそのものが好きなのだ。手を加えることが前提となったモノはそれだけで大変に創作意欲をくすぐるし、〈素〉であるゆえのあっさりとした佇まいも愛らしい。そんな愛らしい素材たちがたくさん積まれている光景は当然のように好ましく、画材店しかり手芸店しかり、素材を商う場はそぞろ歩くだけでわくわくする。そして時に、いや結構な頻度で、すぐには使うアテのない素材を手にレジへと向かってしまうのだ。

 そんな私にとってユザワヤは極上の遊び場であり、今やよき友である。こうも売り上手だとは知らなかったので今後のお付き合いが少しだけ怖いけれども、そこはまあ、自宅に糸用の箱を設置する方向でなんとかしてゆこうと思う。

コメント

  1. 身の回りに編み物やってる方が多い気がする…いいなあ、無心に手を動かし続けるなにか。材料選び、最高に楽しいですよね。スーパーを巡りながら献立を考えるのに似ている。

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  2. 素材が並ぶお店って可能性に満ち溢れていて、わくわくしますよねぇ。
    すぐに使わなくてもいいし、何に使ってもいいものが家にあるのも嬉しい。友と良い関係が築けますように。

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