冬は汁物

雪の降りたるはいふべきにもあらず、今、干しキノコが熱い。

ことの発端は、パートナーのご実家から干しいもを頂戴したことにある。昨年の秋、自家製さつまいもをふかして作った干しいもを、たっぷり1キロほど送ってくださったのだ。その際に「干しが甘めだから、長期保存をするなら追い干しを」との助言を賜り、ならばと干し網を購入した。

いかにもな青い化繊の紐でざっくり編まれた、300円かそこらの安価な平網である。その網に干しいもを並べ、洗濯物の隣にS字フックで吊り下げて風に当てること数日。

追い干しした干しいもは少し硬くなり、トースターで軽くあぶると、ねっとりとろとろに仕上がった。しっとり出来たてとはまた違う味わい。凝縮された甘みと旨み。

そう、食物は干すと諸々の味がぎゅっと凝縮されるのだ。凝縮を経て美味しくなるのみならず、日ごと水分が抜け、小さく慎ましくなってゆくその姿も愛らしい。

天気とにらめっこしながら干しいもを育てるうち、我が家はみるみるうち「干し」のとりこになっていった――が、しかし。その頃には残念ながら、頂いた干しいもをすっかり食べきってしまっていた。

そこで目をつけたのがキノコである。

「しいたけは干すと栄養価が上がる」という話は有名だが、試したことはなかった。干し網が手元にあり、“干し熱”の上がり切った今こそ試し時であろう。

そんなわけで、しいたけ、しめじ、エリンギ、舞茸、えのき等、近所のスーパーで買える限りのキノコを買い求め、干してみたのだ。

いっときに多種多様なキノコを干し、さまざまなことがわかった。キノコは干せば干すほど小さくなるため、しめじやえのきなど房をほぐすタイプのキノコは細かく裂きすぎると網の隙間からこぼれ落ちてしまうだとか、雨天の折り屋内に干し網を入れると、とんでもなく濃厚なキノコの匂いが家に充満するだとか。

北風と太陽のご機嫌に振り回され、キノコ原木で組まれたログハウスにでも滞在しているのかと錯覚しかねないほど芳醇なキノコの香りに包まれて眠りにつき、よきところまで干されたキノコを回収しては新たなキノコをほぐし、切り分け、網の上に並べ……そんな日々を過ごして今日(こんにち)、我が家の冷蔵庫には常に3袋の干しキノコミックスがストックされるに至った。

乾いてからっからになったキノコはさながら秋の道端に落ちている小枝や枯れ葉の様相であるが、水に放り込めばそれだけで高級感のある出汁を得られる。その出汁に味噌を入れて味を調えれば濃厚な味噌汁になるし、この出汁をラーメンスープのベースにしても最高だ。4日ほど干され枯れ枝のごとく成り果てたしめじが、水に投入されてほんの十五分ほどで在りし日の姿を取り戻しぷりぷりとしてゆく過程には生命の神秘すら感じる。

今夜はそうやって得た神秘の出汁に溶き卵を入れて、茶わん蒸しを楽しむ予定である。ついでにカニカマも入れようかしら。うひひひひひ。

コメント

  1. でたーーーー!茶碗蒸し!!私の大好物、焼き鳥の次に好き!!
    干しキノコミックス、字面からもう最強じゃないですか…なんとまあ豊かな…

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  2. なんだか雑誌に掲載されているエッセイのような、干しライフ。きっかけさえあれば始まって、さらなる楽しみが生まれるのですねぇ。

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