りんごを旅する(後編)

 この日記は10月17日の「りんごを旅する(前編)」の続きとなっております。

22日の大なめろう大会の様子もお伝えしたかったが、約束だ仕方ない。


15日の朝、日曜日

宿の周りの林は湿っているが、雨はやんでいるようである。

本来は2日目もチャリをブイブイ言わせるつもりだったが、天気予報が高確率の雨だったので昨日自転車は返したのだ。気温もさらに下がるようだったので、アウトドアに愛用しているワークマンの薄くて暖かいハイネックシャツにトレーナーパーカー、さらにレインパーカーを羽織る。

朝飯は直売所で購入したリンゴを練りこんだ食パンをトースト。生地にほんのりと甘みがある。中途半端に持って帰るのも荷物なので、ひとパックまるっと食べてしまった(スーパーの山型6枚切り食パンのパックと同等とお考え下さい)


Mさんに作ってもらったブラムリージャムを塗り、リンゴジュース【さんたろう】で流し込む。ザ・リンゴ尽くし。

さらに、同じく直売所パンコーナーで手に入れた小さな丸いピザをもぐもぐ。Mさんは普段朝ごはんを食べないそうだが、この旅では私と同等の食欲を示している。

9時に母屋に顔を出すと、昨日ウェルカムアップルを持ってきてくれた禿頭鉢巻のお父さんが現れた。「行くか!!」「はい!お願いします」

この朝はオプションの農園案内を頼んでいたのである。繁忙期にもかかわらず、ご快諾いただけた。

この農園は「山下フルーツ農園」という。敷地内には私が宿泊した農家民宿「へんぺさんち」と古民家カフェ「カフェ傳之丞」が併設されており、地元の観光センターでもタクシーでも「ああ、山下さんの」と通じるようなこの辺りでは有名な農園だ。

3年前からここに来てみたかったのだ。

私が東京で購入しているリンゴは、リンゴを変態的に食いまくっている八百屋が、自分がおいしいと思った農家と直接取引で扱っているものが多い。

最初の年は「はい、山田君の来たよ」と言われても「そんなこと言われてもわかるかーい!」と苦笑していたが、だんだん同じ品種の農家違いを食べ比べていくうち「片桐さんのふじが断然好き」「今年の内村さんのつがるいいな」とわかるようになるので恐ろしい。

山下さんのリンゴは「見たことも聞いたこともない謎の海外リンゴを出してくる」という印象で、【タイデマンズアーリーウースター】とか【ローズマリーラセット】とか本当にその名前、その見た目はリンゴですか?というリンゴの概念を変えるおもしろい体験をさせてもらった。

どんな土地のどんな木になっているのだろう、どんな人がそんなマイナーなリンゴを作るのだろう。

ずっとブックマークしていた思いを、今回叶えた。

お父さんは、私が買っている店を伝えてもピンとはきていないようで(たぶんその担当は息子さんで)でも、「今年のつがる、めちゃめちゃ甘くておいしかったです」と伝えたら、「そう?今年は色づきが全然悪くて……ならよかった」と少し笑った。

山下さんが発起人となって立ち上げて法人化したあっぷるファームさみずの施設から見せてもらう。



選果してプラスチックコンテナや段ボールに入れて、生協などに出荷する。年明けからは褐変(実に茶色い斑点がはいる現象、クレームになる)がないかセンサーでチェックもしたりするそうだ。

その奥はわい化栽培の並木。


資料で見たやつだ!昔ながらの、大きな台木に挿し木をして横にも上にも大きな育てる栽培ではなく、わい性台木で細く密植して育てる、収量増加と作業効率向上が見込める比較的新しい栽培法……という知識だけはあったのだが、実際に見るのは初めて。整列した並木ならルンバのような自走草刈りロボットも走りやすい。

貯蔵用の広い冷蔵庫を覗かせてもらい、充満したリンゴの香りを嗅ぐ。負担の大きい農作業を少しでも楽にするためのバッテリー式の剪定鋏などが格納されている作業場で長靴を借りて、今度は山下さんの「お金にはならねぇ」レア品種コーナーへ踏み込む。

先ほどの整然としていたリンゴ畑とは違い、あちこち好き勝手に植わっているように見える、横に枝を伸ばす木々。


もう収穫が終わって私のおなかに納まった品種もあるが、果肉がピンクの【冬彩華】、【ハニールージュ】はその場で割ってもらって(パワー!)むしゃむしゃ、


【グラニースミス】、【北斗】、【世界一】、【もりのかがやき】、上にまっすぐ伸びるメイポールのようなカラムナータイプの樹、名前を忘れちゃったらしい姫りんごサイズの黄色いリンゴなど。ポイントポイントで「はい」と次々にリンゴ(とクルミとマルメロと)を手渡してくれるので、私のパーカーのポケットはどんどん膨らんでいった。

枝の途中で切って別の品種の穂木を接ぎ木する高接ぎ、資料で見たやつだ!


その品種の栽培を止める時に「枝切っちゃう」と聞くことがあるのだが、これでくっついてまた別の品種ができるようになるんだから植物は不思議だ。

納屋の軒先には薪を切る機械、農薬を散布する車、たい肥をまく機械などたくさんの機械が並んでいる。

ぐるっと一周して集合場所に戻ってきて、「このあとはどこにいくんだ?」とお父さんが聞くので、行先を告げると「こういう行き方のほうがいいよ。あとで地図描いてやっから」とわざわざ手書きの地図を描いてくれた。優しすぎるだろ。


「カフェ傳之丞」はモリスの屏風で、畳に絨毯と椅子という素敵空間。



庭の見える窓際の席でクランブルタイプのブラムリーのアップルパイとあみあみの普通のアップルパイをシェアした。酸味があるリンゴの良さ、めちゃめちゃ伝わってくるな。あと飯綱町のアップルパイ、どれもこれもパイ生地がおいしい。Mさんはこの旅で酸っぱいリンゴに目覚めたらしく、セットのジュースもグラニースミスを選んでいた。


はー居心地が良い。ずっとここにいたいなあと思ってしまう。

なんとか腰を上げ、お父さんにもらった地図を片手に歩き始める。買った瓶類や貰ったウェルカムアップルで肩や腕にそれなりに負担がかかってスタスタというわけにはいかないが、田舎道には赤く色づくリンゴの木が普通に植えられていて楽しい。

お父さんは20~30分と言ったが、40分ほどかけて到着したのはいいづなアップルミュージアム。飯綱町のリンゴについての展示と、少しでもリンゴに関わるものならなんでも収集した圧巻のコレクションを見ることができる。



高坂りんごという姫りんごサイズの和リンゴについての説明が丁寧で、

「食用の植物は、より美味なものや生産性の高いものが栽培されるようになると、古い品種はすたれてしまい、一般には見ることができなくなってしまう」と平成19年度当時の天皇のお考えで、東御苑に果樹古品種園が作られたと知る。今度行ってみよう。

コレクションはリンゴモチーフの玩具やファッション小物、椎名林檎はもちろん、リンゴのシーンがあれば男はつらいよでもいいらしい。施設に特色を出そうという気概がうかがえる。

展示でも山下フルーツ農園で栽培しているような外国品種の説明があり、売店ではミュージアムで栽培されたリンゴを売るカゴがあり……え、【サマーランド】売ってんの?まだ食べたことないやつ。購入の際「みなさんが食べ慣れた硬くシャキシャキしたふじのような感じではないですよ」との注意を受ける。うん、大丈夫!【マッキントッシュ】のお子さんでしょ?ワタシリンゴチョトワカル。

ミュージアム、思ったよりも混雑していて、みんなそんなにリンゴにご興味が?と思ったら、常設展はガラガラで、葉っぱ切り絵リトさんの企画展示目当てだった。うとい私でもSNSで見たことあるくらいだから有名なのだろう。しかも無料とは太っ腹。


カフェも普段はガラガラらしいのにそのせいで満席、売り切れもあり、地元の常連さんが驚いていた。お昼ご飯を食べたいので席が空くまで待つことにする。

窓の外はザーザー降り。外を歩いているときに当たらなくてよかった。

ビーフカレーと生絞りリンゴジュース。



品種はサマーランド、ブレンハイムオレンジ、【ハックナイン】のジュース!この3種を混ぜるのはなかなか他では飲めないと思う。

食事をしているうちに雨が止んだので(晴れ女なので!)、バスの時間まで、ミュージアムから続くニュートンの並木を見に行った。


ニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したと言われるのはご存知ですね?


そのニュートンが見たリンゴ【フラワーオブケント】がこの中にある。なんだかロマンを感じて、私は食べる時いつも背筋を正したくなっちゃうんだよね。

外国品種や珍しい日本の品種が植えられていて、だいたい食べたことあるけど【スパータン】はまだだなあとニコニコ栗の落ちる遊歩道を速足で端まで歩いて折り返して、駅に向かうバスに乗った。

昨日はスイーツ・ジュース巡り、今日は研修旅行っぽい構成になって大満足だ。

ちゃっかりみつどんグッズを買い足して、さらば飯綱町!

うとうとしているうちにあさまで東京駅に着いて、夕ご飯に私おススメの店の担々麺を食べ、解散した。


やはりMさんとの旅は自然体で楽しめる。またどこかに行きたいものだ。もう一つのリンゴの聖地、青森県とかね。

なお、1週間たっても筋肉痛は来ませんでした。電動アシスト……おまえ……ありがとな。


コメント

  1. わい化栽培の並木、こないだ偶然に見て「ひじきゼミでやったやつだ!」になりました。おいしく楽しい写真がたくさんだ~!

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