りんごを旅する(前編)
日記としてズレはあるが体に余韻は残っているので(余韻じゃなくて疲れとか言わないそこ!)、旅の報告をしてもいいかなー?(いいよー!)しかも長くなりそうだから2回に分けていいかなー?(交換日記でそんなことあるー?)
土曜日
リュックを背負い、たくさん歩くとき用のスニーカーで玄関を出る。出勤のときより荷物が軽い。もともと旅支度に重装備をする方ではないが、今回は1グラムでも身を軽くする必要があって、何かあったら使うかもな備品はほとんどリストラ、ポイントカードでパンパンの財布はお留守番、保険証とクレジットカードと現金をパスポートケースに移して財布とし、寝間着すら入れないという徹底ぶりで厳選したのである。旅をするには明日のパンツがあればいいと世界を放浪する仮面ライダーの青年が言っていたが、まあ、ここは日本で言葉は通じるしコンビニもない土地というわけではなさそうだからどうにかなるだろう。
朝5時〜6時の休日の駅のホームは、まばらに、でもスーツケースを引いたり山登りの装備だったり明確な目的地を持っているように見える人が静かに電車を待っている。こういう描写はX(旧Twitter)の投稿では削ってしまうからこの交換日記に書こう、そう思うことが増えている。
東京駅から北陸新幹線かがやきに乗る。旅の伴侶とは、少しでも互いの睡眠時間を稼ぐために隣り合わず長野駅で待ち合わせしようと別々に切符を取ったのに、駅弁の写真などがLINEで送られてくる。さては寝る気ないな。私自身はうとうととし、気がついたら車窓の奥に山並みが広がっていた。山が日常的にある土地で育ってこなかったので、山を見ると遠くに来た実感があってテンションが上がるのはいつものことだ。
1時間20分で降り立った長野駅はずいぶんひんやりとしていた。防寒対策は考えてきたが、夜や雨予報の明日に耐えうるだろうか。Мさんと落ち合う。Мさんとのふたり旅は、久しぶりだ。以前はベトナム、ペルー、モンゴルを旅した仲で、こと海外旅行においては現時点でのベストパートナーだと思っている。Мさん側も結婚しても変わらずそう思ってくれているようなのでありがたい。一人旅より楽で一人旅より楽しいの始まりだ。
長野駅から電車(扉を手で開けるタイプ)を乗り継ぎ、牟礼(むれ)駅。Suicaが使えない洗礼をさっそく受ける。駅併設の観光センターで予約していたレンタサイクルの受け取り、なにせ自転車の運転は十年以上ブランクがあるので不安だったがよろよろと漕ぎいでた。
我々は「飯綱町のりんごを楽しむ秋の93日」英国りんごフェアを堪能するためにやって来た。リンゴの産地である飯綱町の飲食店が英国りんごを使った料理を提供し、スタンプラリーでその店々を回ってスタンプを集めると賞品がもらえるという主旨のイベントである。
英国リンゴについてはおいおい。まずは駅から比較的近いケーキ屋さん「明月堂」へ。対象商品のアップルパイを購入し、スタンプを得る。
牟礼村と三水(さみず)村が合併してできた飯綱町は山の中にある。つまり、ここから急な坂道に入る。私はナビを装備したMさんの背中を必死に追うしかない。自転車には電動アシストが付いていて、初めて使用したが平地ではたしかに後ろから押してもらえるようなサポートを感じる。だが、傾斜となるとそれでも足に負荷がかかる。口が開き、息が荒くなる。もっと、もっとアシストしてくれ。次の目的地にたどり着く前に、これは無理かもしれないと早くもくじけそうになるが、立ち止まっても楽になれないのがわかっているので前に進むしかない。
汗だくで辿り着いた丘の上には久世福商店でおなじみの「サンクゼール・ワイナリー」。ワイン用のブドウ畑の奥にまるでヨーロッパを錯覚させる建物。
知らずに来たのだが、この日はサンクゼールの収穫祭で中庭にて料理が振舞われ、野外ライブやマルシェ、その他のイベントが行われており大変にぎやかだった。マフィア映画ゴッドファーザーのオープニングかよと思ったくらいである(伝わる?)
町のPRキャラクターの「みつどん」が特別ゲストで来ていて、まさか会えると思っていなかったのできゃっきゃした。
駅でどのグッズを買おうか迷い、アクスタのガチャ回すくらいは気になっているゆるキャラなのだ。みつどん、何かもの言いたげな顔と低い等身が絶妙で、着ぐるみになって動いてもかわいい。
本店でしか買えないレア品種(高坂りんご、メイポール、ベルドボスクープ)のシードルを購入し、自宅へ配送の手配。瓶は重くて運んでられるかい。
スタンプラリー対象商品のアップルパイは商品名に恥じず本当にゴロゴロとリンゴが入っていて、パイ生地も美味しくて、こういうの好きと言うパイだった。
使われている品種は【ブラムリー】という、緑色で大きな酸っぱいリンゴだ。そのまま食べるにはかなり刺激が強すぎるが(私は食べるが)外国だとクッキングアップルとしてジャムやパイに使われる。鋭い酸味に砂糖が加わるとはっきりした味の美味しいコンポートになる。飯綱町は町を上げてイギリスから枝を取り寄せ、英国りんごを栽培し、このようなフェアを開催しているのだ。
マルシェに並ぶリンゴジュースもさすがレアリンゴの町(いま勝手に名付けた)飯綱町である。さっそく飲み比べた。
【夏あかり】甘さのある美味しいリンゴジュース
【ブレンハイムオレンジ】すきっと通る柑橘のような酸味
【メイポール】梅っぽい酸っぱさ、炭酸割りもきっといい
【アロマ】酸味のあとに皮の風味ととろみ
吹き抜ける風と暖かな陽光が心地よい。
道を挟んだワイナリーレストラン・サンクゼールで食事をとる。英国りんごとモッツァレラチーズのカプレーゼは蕪ピクルスのようになったリンゴが料理として成立していた。
信州鹿のボロネーゼやジャガイモとタコのガリシア風、かぼちゃのポタージュもおいしい。接客も高ポイント。
テラスからは山に囲まれた集落が見下ろせて、空が青く、旅をしている実感がわいてきた。
いつまでもここにいたくなる。いや、これ以上チャリを漕ぐのが不安とかではなくてですね。
リンゴの木の近くを歩くと、以前映画で見た高いところで作業するための昇降機があった。
主人公はこれに乗ってリンゴ園の中で夜空を見上げ、父親と話すのよね。どの枝も赤い実がたわわについていて、それが次々と収穫されているようでニコニコしてしまう。
幸いにも次の目的地までは下り坂も多く、チャリで疾走するのは気持ちよかった。
田んぼ、ぶどう園、民家、あ、ネコ。
「いいづなコネクトEAST」は廃校になった小学校を利用した施設でシードルの醸造所やワークショップをする部屋、そして「泉が丘喫茶室」が営業している。
ここに50品種近くのリンゴジューズが並んでいてどうしましょうどうしましょう全部買いましょうかとソワソワして、配送について聞いたら……送れませんだと?バカなの?オンラインショップがあります?でも品種は選べません?バカなの?近くにヤマトの集荷所を作れ、郵便局でもいい今すぐにだ。自転車で運ぶのには限界があるので泣く泣く絞った。
うわーん、あれもあれも欲しかったよう。なんなら全部買ってもよかったのに。
クラフトコーラ的ブラムリーのアップルコーラと丸ごと紅玉のタルトを食べる。【シナノピッコロ】と食べ比べたが、【紅玉】に軍配が上がった。
Mさんはおかわりしたいくらいだと大変気に入ったようである。こんなにMさんがリンゴスイーツ好きだと実は今日になるまで知らなかったので、私だけが楽しいひとりよがりな旅になったらどうしようが杞憂に終わった。アップルパイならいくらでも食べたいと気持ちよく食べてくれる。誘ってよかった。
スタンプが無事3つたまったので引き換え場所である直売所へ。
なんだかんだ日暮れが近づいているようで、時間が立つのはあっという間だ。
直売所に着いてふと、夕食を調達していないことに気づく。いや買えそうなとこなかったけど。腹の足しになりそうな信州そばと地元野菜のコーナーの空心菜と、地元パン屋のリンゴ食パンとピザをあわただしく購入。出発時に比べて荷物めちゃめちゃ増えたな!賞品はみつどんのマスキングテープを選んだ。
事故なく辿り着いた駅に自転車を返し、タクシーで宿へ。
今日のお宿はリンゴ園の中にある土蔵を改造した農家民宿。天井が高く、2階も合わせれば7人くらいでボードゲーム合宿もできそうである。風呂トイレに加え、キッチンが付いている。
チェックインすると、さっそく農園のお父さんがウェルカムリンゴを持って現れた。
いや、こんなくれんの???【エグレモントラセット】とか【ベルドボスクープ】とか初心者だったらハードル高いやつもしれっと入っている。
信州そばは恐れ多くも、空心菜と一緒に醤油とごま油で炒めた。にんにくはなかったが割といける。Mさんにブラムリーレンチンジャムを作ってもらう。先日の芋の会でもやったレンジで4分でジャムができるって驚きを体験してもらわないとね。
農園併設のカフェで手に入れたキッシュもおいしかった。ホタテ&キャベツ、カボチャ&ミートソース。【ブラムリー】と【すわっこ】のリンゴジュース飲み比べ。すわっこは実際の実よりまろやかに感じた。
宿にテレビはなく、辺りは静かである。苦にはならない。ぽつぽつと会話をし、各自スマホをいじって過ごす。
風呂は一見普通の湯船に見えて実は五右衛門風呂で、焚口から薪を燃やすのだった。
20分ほどでよい湯加減のお湯になり、底が熱くなるので板を敷く。私が湯あみをしている間に、Mさんはリンゴサワーがまわり疲れもあって寝てしまった。おやすみなさい、また明日もよろしくお願いします。
(次の当番日へ続く、たぶん)
交換日記の前後編!(いいよー!) りんご尽くし、あまりにもひじきさんらしい…自転車での旅は大変そうですが、合間から伝わる土地の雰囲気にわくわくしました。後編も楽しみ!
返信削除でたー! すごい、生の果実もジュースもいろとりどりで美しいわ! いいですねえ、食べて飲んでたくさん運動して、すこやかな旅。私も次の旅はそういうのにしよう。
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