週末のはなし

いま、あたらしいMacBook Airでこの日記を書いている。
うわあい、もうバッテリーの心配しなくていいぞ!
昨晩は退勤後にダッシュでApple Storeへ駆け込んで、帰ってきてから新旧移行作業をしていたのであとは寝るので精一杯だった。

というわけで、一日あけて週末のことを振り返る。

てっぺん回るまで働いた日の翌土曜日、思いのほかまともに起きられたのでサッと身支度と荷造りをし、そのまま歯医者に向かった。
めちゃくちゃ深い虫歯のめちゃくちゃ深い削り孔を埋めた仮詰めをどうにかしようという日だったのだが、歯科医・歯科衛生士ともに私の荷物を見てはたと手を止めた。「このあとおでかけするならやめときましょう」と口を揃えて大工事は延期となり、代わりに正しい歯磨きのやり方を叩き込まれてきた。

私のやり方は大変荒く、またろくに意味をなしていなかったらしい。それでよくここまで生きて来れたな。歯科衛生士さんに「そうそう、上手ですよ〜」と照れくさいやら情けないやらの指導をみっちり受けて、以来おかげで私の歯は嘘みたいにつるりとしている。

口腔内はさっぱりしたがけっこう恥ずかしかったので、ダメージの余韻をひきずりつつ電車に乗り込んだ。
青春18きっぷで一路東京、ダーッと駅ナカを早足でまわって友人たちへのお土産を手配し、東海道線に乗り継ぐ。熱海、浜松、名古屋。熱海までは旅行客がたくさんいて、浜松行きは途中の駅でライブがあったらしく混雑しており、とてもとても座れなかった。都心と違い、長い距離を走る電車はボックス席がたくさんあるから立つスペースが限られている。人の多いなか足元に荷物を置いていると、時に変にねじれた体勢を保つ羽目に陥って攣りそうになる。こうなると正直だいぶしんどいが、本やスマホの画面からふっと顔を上げたときに目に入る車窓の山々、実りの気配に揺れる田んぼ、乗っては降りていく地元のひとびと、東西武将の看板を掲げた関ヶ原駅など、面白いものにさまざま出会える。
この「ふと顔を上げたときに」くらいがちょうどいいのだ。あくまで目的は移動だけど、他の楽しみかたはいろいろある。それが鈍行列車のいいところである。

青春18きっぷは乗り降りし放題なので途中駅で降りてみてもいいのだが、この日は名古屋まで行かねばならない。東海道線はまだ多い方だが、数分に一本必ずやってくる都心の電車を想定して動くと大変危険である。へたするとびっくりするほど足止めを喰らうことになるので、おとなしく乗り換え案内にしたがった。さすがに前日の疲れが出て、やっと座れたあとはだいたい寝ていた。

名古屋までだいたい6時間。駅前のナインアワーズに荷物を置いて、またも駅ナカを駆け巡った挙句名古屋コーチンの親子丼と味噌カツのセットをいただいた。名古屋の街、とくに駅周辺のあのギラギラ感って一体なんなんだろう。東京大阪とはずいぶんテイストが違う。

宿に戻ったらさっさと寝て、と思ったが電車で昼寝してしまったので少々手こずった。朝早く起きて名古屋城でも行ってこようかなんてうっすら考えていたのだが早々に却下し、ぎりぎりまで寝てから出発しようと心に決めて就寝した。

朝は駅のパン屋さんでイートインをキメて、一路大阪へ。途中、米原で乗り換えなのでブレットトレイン的な何かを期待してそわそわしたが、もちろん何も起こらなかった。
新大阪、大阪、本来の目的地は天満橋駅なのだが、それだときっぷを買い足さねばならない。にぎりしめた18きっぷを最後まで使うべく、JR京橋駅まで行って、そこからトコトコ歩いた。名古屋からだいたい3時間。電車に乗ってばかりであまり外歩きをしていないのが不満で歩き始めたものの、道のりが高架下でいまいち殺風景だったためちょっと後悔した。なにせじっとりと暑いのである。一泊分とはいえ荷物を抱えた状態だったので少々こたえた。

寝屋川橋を渡ってテレビ大阪の向かい、とうとうたどり着いた天満橋OMMビルが今回の終着である。
ここがなにかというと、文学フリマ大阪の会場である。私はここに、主に友人に会いにきた。
友人の、というよりほぼ私の一方的なファン行動から仲良くしていただいているSさんの大長編大河ファンタジーがこのほど文庫書籍化されたため、Tさんが音頭をとってHさんがイラストを描き私が怪文書を寄せた応援宣伝ポストカードを作ってイベントごとに配りまくって(おもにTさんが)いるのだが、それぞれが離れたところに住んでいるのでなかなかリアル会合ができない。シリーズ最終巻までつつがなく続刊していただかねばならないので打ち上げにはまだ早いが、どこかでうまいこと集まれないかとかねてから相談していたのである。
そしてその「うまいこと集まれた」機会がこの文フリ大阪、というわけだ。

本来、同人誌即売会といえば狩りのごとく己の眼鏡に叶う本を探し回り買い求めるものだが、なにぶん私は金欠の身である。そんなこと言いながら大阪行ったりするじゃないかと突っ込まれそうだが、大阪に行くために今月の資金は尽きたのである。なので、今回は場外に設けられた見本誌スペースで見つけたお知り合いの方の本を吟味して買い回るにとどめた。そもそも、人の多さと荷物の多さでくたびれてしまったのもある。私の社交エネルギーがもつ範囲で知り合いに挨拶してまわり、ささやかなお土産を渡してそれ以上のおやつをいただいてしまったりなどして、あとは一緒に会場を離脱したSさんと、追って合流したHさんとずーっとしゃべりながらお茶をしていた。

めちゃくちゃいろんな話をしたが、やはり話題の中心はSさんの作品の話である。私とHさんは勝手にアニメ化構想をはじめ、いかにして企画書をつくりプレゼンするか、キャスティングは誰かなどと大変盛り上がった。ひとさまが苦労して書き上げた物語を好きに料理しようとして、まったくいい気なものである。

アニメ化かどうかは置いといて、企画書云々は結構本気だ。だって私ったらイベント屋だもの。なにかしらお仕事で関わって、作品を盛り上げ広く知らしめる役に立てたらそれほど嬉しいこともない。
早く力をつけにゃあ。

イベントが閉会してTさんも合流し、さらにしばしお茶。
4人集まってみると、プロの物書きがいて、歴史や財務経理に詳しい人がいて、イラストが描ける人がいて、イベント屋がいて、とその気になればなんでもできそうなメンツが揃ってしまった。共通するのはもちろん全員が創作をたしなむという点で、その立場からそれぞれに社会を眺めているのがとても興味深く面白かった。

Hさんとは初対面だったのに、本当に他人のような気がしなかったな。

さきに帰宅するHさんを見送って、SさんTさん私の3人で焼肉。物語、とくにファンタジーとは、みたいな話で互いの思うところを出し合って、私にとってはとても勉強になった。お二方ともけっこうはっきりした主張をお持ちなのだけれど、一本芯が通っており別の主張を受け入れる余地があるので、安心して意見を交わすことができる。
なんだろう、ただ知識があって難しいことを理解しているというよりも、「つねに相手を受け入れる用意ができている」ことについて、知性というものを感じたものである。

楽しい時間はほんとうに一瞬で、いいお肉をたらふく食べたあとはシンデレラのごとく新幹線に駆け込み、友人たちから分けてもらったたくさんの「なにか良いかんじのもの」でほくほくしながら帰路についたのであった。

コメント

  1. 週末の日記、待ってました!大移動お疲れ様です。
    文フリ大阪、Xで見ても盛況だったようで、私も参加したくなりました。
    多彩な4人の会話、本当になんでもできそうで聞いてみたいな~。

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  2. 文フリ大阪、楽しんでいらしたようで何より! 行動力の化身な草群さんが加わると、ホントになんでも実現してしまいそうですよね。イベント屋さんは天職なのかもしれない。

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