月に一度のお楽しみ

 吉祥寺のハモニカ横丁中央通り朝市にて、文芸同人誌を売ったりフリーペーパーを配ったりした。

  ハモニカ横丁というのは、JR吉祥寺駅から歩いて三分もかからぬ場所にある、古式ゆかしき飲み屋街だ。狭い小道の両側に小さな飲み屋や商店がひしめき合っていて、その様子が楽器のハモニカのようだというのが名前の由来らしい。

 そんなハモニカ横丁で、毎月、第二の日曜日に開催されているのが「ハモニカ横丁中央通り朝市」だ。朝市の日はハモニカ横丁の狭い小道に、参加者各々と、その各々が持ち寄った売り物がひしめき合う。雑貨を売る者あり、串団子を焼く者あり、似顔絵師あり、占い師あり――その末席にちょんと座らせて頂き、文芸同人誌を売りし者が私である。

 参加し始めたのは、今年の三月だか四月だか。それ以来、おおよそ毎月、欠かさず参加している。「おおよそ」と但し書きがつくのは、雨の日はお休みしているからだ。紙の本は水に弱い。

 さて今朝はといえば、雨の心配など欠片も要らないお天気だった。むしろ日差しが強すぎるくらいだ。朝市の開始は八時。それに間に合うよう家を出て、お釣りの百円玉を入れていたポーチを家に置いたままであったことに気づき、慌てて引き返した上でハモニカ横丁に到着した頃には、まだ何も始まっていないのに汗みずくであった。

 ひいこら言いながら店の支度を整え、見知ったお隣さんからの労わりの言葉をありがたく受取り、ひと息つく。この朝市、人が大挙して押し寄せてくるような催しではないのだが、今回は吉祥寺の秋まつりと日程が被っていたせいか、横丁はいつもより賑やかであった。

 お隣さんと一緒にぼんやりと店番をしつつ、この暑さはことによると十月まで続くらしいだとか、井の頭公園はどうして「いのがしら」ではなく「いのかしら」と、濁らせず読むのだろうとか、とりとめのないお喋りに興じる。こんなに商売っ気のない態度で過ごしているのに、人がやってくると、どちらからともなく話をやめて「おはようございます」「手に取ってご覧になってってください」など店の主の顔に戻るのがなんだかおかしい。しばらくすると知人が様子を見に来てくれたり、同じ朝市に出店している人が店の番を放り出してお喋りに来たりする。朝市に出店し始めてから「なんか新しいの入った?」と毎回訪れてくれる、いわゆる常連さんもできた。

 そうそう、これこれ。これが楽しくって朝市に参加しているのだ。月に一度のお楽しみ。来月の第二日曜も、今日のように晴れてくれることを願うばかりである。

コメント

  1. 朝市、まだ一度しかお邪魔してないですがおいしい食べ物もクリエイティブなものもあって楽しかったです。常連さんできるのいいですね、また遊びに行きます~。

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  2. 朝市、行こう行こうとは思うんだけど爆睡してしまう怠惰な私。同人誌の行商をするやまおり亭さんといい、りんごの行商をするひじきさんといい、働き者のみなさんに頭があがりませぬ……

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