現状腹つつがなく

 新小岩にて行われた女子会研究会の定例会に出席した。

女子会研究会とは「女子会がなんたるものかわからないまま年を取った女子が集まっておいしいものをしこたま食べる会」である。

2019年10月にHさんとCさんとひじきの3人で発足し、2022年に新レギュラーにNさんを迎えた。コロナ禍で中断した時期もあったが、開催は基本的に毎月1回で累計30回を超す。めちゃめちゃ研究してるな、おい!

6歳ずつくらい離れている各世代の女達で、性格も外見も方向性はバラバラなのだが、会員の誰ひとりとして本当の女子会がわからない。正しい女子会に呼ばれる機会が、人生においてなかったのである。どろどろした人間関係をこねくり回したり、心にもない共感ビームを発射したり、マウントの取り合いの場にそぐわないと判断されたのかもしれない。それは……そうかもしれない。

しかたがないので、毎回食事会場で「これは女子力が高いポイントなのでは!?」「それはとても女子!」ととってつたけたような研究を行っている。

たとえば、パクチーは女子!とか、バイスサワーはピンクでかわいいから女子!とか、魚卵はキラキラしてジュエリーみたいだから女子!といったポイントの付け方である。

過去最高に女子会ポイントが低かったのは、クリスマス直前にトナカイの肉を鍋で食べた時だったと記憶している。各種珍獣肉の暴挙を尽くし、「睾丸ください」も連呼したので始末に負えない。

今日は久しぶりに初期メンバーの3人で集まった。

新メンバーのNさんはお酒とお米大好き女子だが、バレリーナでもあるので発表会が近いと土日祝はレッスンに費やされ、体を絞るのだ。今回の定例会はパスするという。

Nさんがいないのならば、辛い物を食べようとそういうことになった。4人の中ではNさんが一番辛いものに弱いので、メニューを選ぶときの辛さチェックはもちろん、店も南インド料理や四川料理などは避けがちである。

会場となる店は毎回、各自が出した候補の中から話し合いで決定するが、今回の店を提案したのはCさんだった。孤独のグルメでも紹介されたことのある貴州料理はどうかというのだ。

貴州料理というものを私は初めて知ったのだが、貴州省は中国の西南地区、四川省に隣接した地域で、料理も唐辛子を多用する四川料理の系統にあたるらしい。

中国のことわざに「四川人不怕辣,湖南人辣不怕,貴州人怕不辣」というのがある。 「四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くても恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる」という意味で、辛さが好きな三省の中でも、貴州人が最も辛いもの好きだという。

Cさんは唯一の経験者であり、提案もしておきながら、研究会前日に「何も食べられなくて全部お願いしちゃったらごめんなさい。わたしは食べたいけど胃腸が怯えて不安定になっている」とひよったことを言い出した。劇的に辛くておいしいのだけど、翌日は痛みに悶え苦しみトイレとお友達になり一日家から出られなくなるらしい。

私は辛いものでおなかをやられたことはないので、その感覚がわからなかった。

当日。

新小岩には駅から続く商店街がある。刺身とフライの美味しそうな魚屋とか、パフェの美味しそうなカフェとか、安い衣料品とか、「ダビング」サービスしてくれる店とか、暮らしていけそうな楽しさがある。

まずは、気になっていた中国パンのお店「劉記 中華面食」でパンを買った。


花巻やおやき、ねじって揚げたような中国のパンがずらりと並んでいる。大ぶりな月餅の種類の多さも目を引くが、卵黄の入った粽や餃子ドッグや肉まん的な甘くないパンも充実しているのが嬉しい。どれこれも食べたくてめちゃめちゃ迷ってしまった。1個売りより3個売りの方がお得になるものもあって、しかもちゃんと個別で袋へ入れてくれるので3人の好みが合うものは大いに活用した。

「明日は外に出られないから兵糧にするんだ」とCさん。胃腸との労使交渉は続いているようである。

そこから徒歩1分の「貴州火鍋」へ。ブラックボードには激辛家常料理と手書きされている。

店に入ると匂いがもうすっぱ辛い。大五郎ボトルで熟成されゆく唐辛子の山がカウンターの奥にずらりと並んでいる。

ドリンクは喉と内臓を少しでも守るために豆乳一択かと思いきや、飲むヨーグルトがあったので全員でそれに。なんて女子力が高いんでしょう。


お通しの冷奴に付いた醤をびくつきながら舐めてみると、ミントが入っていて爽やかな辛さ。新しい。

前菜3種盛りは前菜とは思えないほどなみなみと出てきた。


きくらげ×辛い唐辛子、ナス×そんなに辛くない発酵唐辛子、唐辛子ちょっと入ってるけどもはや他で麻痺してわからない程度の豚の脂をかりかりにしたやつ。

ポテサラと発酵野菜を炒めた「洋芋粑粑」は、現地の屋台料理だというが、スーパーのお惣菜コーナーに置いてほしい。燻製も効いていて定期的に食べたい味。豚脂カリカリとも相性抜群。


砂肝の泡椒炒めは沢庵のような漬物の食感が効いた炒め物で、辛さを3段階中1にしてみたが、唐辛子が口に入ったHさんはジュースを飲んでなおむせ続けた。


そんなジェットコースターの小さな落下、小手調べを経て、いける!おいしい!と盛り上がってきたところで、我々は後戻りできない大きな坂を上り始めた。

豆鼓火鍋。




豆鼓は干し納豆のことで、独特のうまみが出る。血のようなスープに具材を放り込み煮詰める間、風下でその湯気を浴びると目が痛み、息をすると咳き込む。卵炒飯を食べていた隣の席のお客さんが急にゴホゴホし始めて本当に申し訳なかった。

鍋のつけダレも、もちろん辛い。

つけダレは麻辣でいうと麻の辛さで、中国の辛さは辛いと言っても1種類ではなく複合的だ。


なるべく唐辛子を除去してから口に入れたいのはやまやまだが、エノキも春雨ももれなく汁に潜む唐辛子をまとわりつけて逃がさない。

「口の中がただれてきた。腹を揺らすと唐辛子が攪拌されて当たって痛い」などと言いながら、ふだん炭水化物を極力最後まで避けがちなCさんが、白米を率先して注文する異様さだ。私も備え付けのティッシュで鼻をかみ続け、ドリンクはでかいコップに飲むヨーグルト3杯と水で、だいぶおなかがたぷたぷになったように思う。

女子会研究会はいつも「多いですけど大丈夫ですか?」と店員に心配されるくらい量を頼むのだが、今回ばかり鍋の力で品数はそこまでいかず、最後に癒しの卵炒飯で〆た。


店の外に出るとまだ日が出ていて明るかった。

ふむ、あんなに脅されたのだ。動けるうちに動いておくか。


電車で東西を渡り、神輿祭りに賑わう駅前を抜けて、制服姿でりんご飴を齧る女学生の眩しさに目を潰されながら、閉店間際の招文堂に顔を出した。

やまおり亭さんにリンゴのお裾分けをするためである。

ここ数年9月~12月に私はリンゴを120種類以上食べることにしているので、家の冷蔵庫保全活動のひとつとして、お裾分けできる人にはこまめにリンゴをもらってもらうというのがある。去年は草群さんをブックマンション関連施設に呼び出して早口解説と共に何度も押し付けた。白雪姫の魔女もびっくりのリンゴ行商だ。

呼び出す場所があるのもそれは助かったが、そこに行けば必ず相手がいると事前にわかっている場所もありがたい。やまおり亭さんがいずれうんざりして「いりません」と言わない限りは「かわいい子入りましたぜ」と持ち込む所存だ。ふむふむと話を聞いてくれる優しさに甘えて、招文堂のカウンターに私はどうも変なものばかり並べがちである。今回は中国パンのでかいやつもご協力いただくことにした。

日記で生活を垣間見ているせいか、あんまり久しぶりの感じはしませんねと言い合う。そうなのだ、前回会ったときにこの交換日記を始めることを決めたので、3日に1度人柄の出るおもしろい書き下ろしを読ませてくれる相手になってからは初めて顔を合わせたのだった。お互いについて知っていることが増えると、なんだかそれだけ近しくなれたような気がして、多少の照れくささもあり「今日も(日記)書きますね!」と別れてきた次第である。


コメント

  1. わーい女子会の話だ! ポテサラと発酵野菜の炒め、豚のカリカリ脂を想像するだけでよだれがじゅるりと…。リンゴもありがとうございます。美味しく食べておりますよ!

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  2. ヒイ〜〜〜絵面が赤いよ〜〜〜!!
    今年もこの季節がやってまいりましたね。いつもありがとうございます。

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