呪いの注文

 映画のために待ち合わせたのは、有楽町の交通会館地下にある昔ながらの喫茶店だった。

店内は薄暗く、背もたれの低いモケット張りの椅子が広い空間にたくさん並んでいる。


初めて行く純喫茶で頼むものは決まっている。

・ピザトースト

・ナポリタン

・バナナジュース

上記3つのいずれかがメニューにあればそれを注文する。

記録を付けているわけではないが純喫茶にはたいていあるので、高確率で頼むことになる。


そういう呪いにかかっている。


2回目の来店なら、別の料理を頼むことも許すが、初めてならばよほどのことがない限りこれである。メニューでその文字を見つけた瞬間、はい脳死で注文。

ピラフやオムハヤシやチョコバナナサンデーやレモンジュースな気分のときもある、あるはずだと思うのだが、いまジャムトーストを食べないと絶対にこじらせて今後三日三晩にわたりそれを食べ続けてしまうであろうというような強力な呪詛でない限り、打ち勝てない。

本格ピザとは別物のピーマンやハムの載った厚切りピザトースト、

やわらか太麺のべったべたに甘いナポリタン、

牛乳と果肉の比率で店の個性が出るバナナジュース


好きは呪いだ。


こういった呪いは他にもある。

・インドカレーならバターチキンカレー

・中華なら担々麺

これにナポリタンを並べるともう「だいたい“だいだい”色」な食べ物である。

数を食べているだけあって、自分好みのナポリタンやバターチキン、担々麺の傾向が分かっている。ナポリタンにいたっては、自作でだいぶ理想に近いものが作れるようになった。好みがわかっているなら、今回の店のは好みとはちょっと違うかもしれないと察して避けられそうなものだが、呪いなので結局はぶつぶつ言いながらも頼んでしまう。

今日の喫茶店のピザトーストは、チーズたっぷりで耳に硬さのあるパンなことがよかった。


おいしい食べ物を知るたびに、呪いは増えていくような気がする。

焼肉屋ならコムタンを頼むとか、蕎麦屋なら鴨南蛮とか、焼鳥屋なら、ベトナム料理屋なら……うわぁぁ、怖いよう。


コメント

  1. 好きは呪いだって言葉にきゅんときてしまいました。ピザトースト私も好き! いいお写真です。

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  2. 純喫茶って実はほとんど行ったことない……まず何を頼めばいいのかわかったので今度行ってみますー

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