キャーが出ない

日本列島は台風接近中の大変な日和である。
関東は直撃こそ免れたものの、猛烈な湿度にさかさま間欠泉のごとくドバッと降る雨、さらに勤め先の周りでは右翼の皆様が集会なさっていて大変賑やかであった。これでも例年より静かだそうだが、予報のせいだろうか。どんなに元気があっても天候には敵わないものだ。

あえて湿度のせいにするが、湿度とバイオリズム的な不調の予感ともろもろがあいまって、今日の私はいつもにまして注意散漫だった。
そもそもがいい加減、かつ、すぐ気分がとっ散らかる己の性分はそれなりの時間生きてきて重々承知しており、過去に何度も痛い目を見ているので仕事中はことさら確認と記録を欠かさぬよう心がけている。私は私を一切信用していないから他人とか紙とかスマホとかに外部出力しているだけなのだが、それをよく見ていてくれる上司は「慎重で正確だ」と評価してくれている。
違う、だまされるな。これはできないやつの極端な対策によるものだ。
そこまでやってもそのうち大きなポカをやるだろう自分の才能がおそろしい。

さて、今の仕事に就いてからちょうど三ヶ月なのだが、とうとうボロが出始めた。大きなミスではないけれど、自分の不注意によるエラーをよく確認しないで他人を巻き込み、巻き込んだ他人によりしょうもない凡ミスを指摘されて終結する、というやつ。
「あ、これたぶん勘違いですね」
アーーーーーッ
はずかしい、とてもはずかしい。
内容は大したことないのだが周りを巻き込んで大騒ぎしたというのが大変はずかしい。よくやるのだ、この手の人騒がせを。わかってた、わかってたはずなのに。くうう……!
その他にふたつみっつ、よくわかってないのに口出してやんわり窘められるとか、そういうちょっとへこむあれこれをやってしまい、しかしへこんでる場合ではないのでとにかくできることを片っ端から片付けた。しつこいくらい進捗を共有し、どんな小さなことでも質問する。それくらいあちこち声をかけまくっていると、自分がミスをしても誰かが気づいてくれる。

今日もそんなかんじでドタバタ働いてたのだが、どうしても一定の時間より前には帰りたかった。

否、帰らない。
わしは映画を観に行くのである。

あまりにリピーターが多すぎてなかなか目当ての回を確保できず、ようやく席を予約できたのだ。
キャーキャー言う系のやつ。アレです、こないだ美術館に行く後押しになったあの推しです。

通勤用のリュックには公式グッズのペンライトをばっちり入れてきた。これをブンブン振るのだ、基本好きなものは箱推しだけど最推しが登場したらそれはもう満面の笑みでブンブン振るのだ。

惜しまれるのは、せっかくの応援上映なのに声が出せないことである。
キャーが出ないのだ。テンションが上がると「ほわあ」とか「ひいい」とかカスカスの感嘆詞しか出てこない我が喉。

頑張って働いた一日の終わり、一度でいいからピャーと高い声を発して推しと自分を労いたいものである。

コメント

  1. 仕事でやらかすと「今日はもうそういう日、おうち帰りたい」ってなっちゃいますが、推しで労うという手が!
    キャーは私も出ないかもしれない……

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  2. 内容はたいしたことないのに大騒ぎしちゃって恥ずかしいやつ、身に覚えがありすぎる。お疲れ様です。推しに対面したとき、わたしも「ング」「ォア」って黄土色の悲鳴を上げてしまうな…。

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