破壊王と満ちていない月
今朝、この夏に入って10個めの洗濯ばさみを壊した。
ピンチハンガーにぶら下がっていたものを6つ、ズボンハンガーの片割れを4つだ。ピンチハンガーとは、ピンチ(洗濯ばさみ)がたくさんついていて、タオルや靴下なんかを干すときに便利なアレのことであり、ズボンハンガーとは、普通のハンガーの両脇に洗濯ばさみがひとつずつセットされていて、ズボンを干すときに使うアレのことである。
洗濯ばさみのぴょんと立った耳を、二つの指でつまんで押し開ける。このとき、圧をかける部分が目測より上にズレると洗濯ばさみの耳が割れる。圧をかけた少し下からメキョリとゆくのだ。
そもそも私は春夏秋冬、洗濯ばさみを壊しがちだが、この夏は特にひどい。おそらく洗濯物を干している最中は昼間の熱さで洗濯ばさみが熱され、取り込まれてはクーラーの風に冷やされ……その繰り返しでプラスチックが劣化してしまっているのだ。その証拠に、これまでならメキョリと割れるところ、この夏はほろりと崩れる洗濯ばさみもいくつかあった。ほろりと崩れる洗濯ばさみはかなしい。ものを壊せばいつだって多少なりともかなしいものだけれど。
ところでピンチハンガーの場合、洗濯ばさみの部分をうっかり割ってしまっても対処のしようがある。というのも、ピンチハンガーの中にはたくさんの洗濯ばさみがぶら下がっており、その中には〈普段あまり使わない洗濯ばさみ〉がある。割れてしまった洗濯ばさみを、そのエリアにある割れていないものと差し替えてしまえばいい。けれどズボンハンガーをやってしまった場合、こうはいかない。アレの洗濯ばさみは対になっているのだ。ひとつ壊してしまったら、ほんの少しでも欠けてしまったら、もう使い物にならない。今朝壊したのはズボンハンガーのそれだった。
ようやく涼しくなった夜。触れるもの全て傷つける己の手を思いながら、とぼとぼ歩き、底抜けに明るい吉祥寺ロフトで新しいズボンハンガーを買う。その帰り道、陸橋を通り過ぎる電車の音につられて少し視線を持ち上げると、夜の空にまるまると月が浮かんでいた。満ちきってはいないものの強い光を振りまいて、まろい肩から滑らせるように纏った薄い雲を、透き通った淡い茜やかすかな黄緑に染めている。完璧であってもそうでなくとも変わらず堂々と空で光る月が、今夜は妙に愛おしい。
実家の洗濯ばさみもひとつバチンと折れると次々に斃れていったのを思い出します。あれ、痛いんですよね……
返信削除おふたりとも日記内で月を描写している、いとをかしと思って、昨夜は私も丸い月を見ました。私はピンチハンガーの洗濯ばさみが外れていなくなってどんどんとめるところが少なくなるんですよねぇ。
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