おそろいの3人
3人というのは親密に過ごすのにちょうどよい人数のように思う。もちろん、2人ならばより密度は濃くなるし、4人になるとつまらないというわけではない。ただ、私は4人以上だと自分以外のメンバーの会話が面白くて聞き役に回りやすい。構成メンバーにたいてい私より話上手な場を引っ張る人がいて、それを受けて返す人がいる。ほどよく話を聞き、ほどよくしゃべり、観客でなく当事者として積極的に関わった上で楽しかった!となるのは3人のようだ。そういえば、この日記も今のところ3人で回している。
ボードゲームを通じて知り合ったKさんMさんと3人でパフェを食べに行った。Kさんとはふたりで映画をよく見るし、Mさんとは旅行をするが、3人でもたまに集まることがある。
今回は私が気になっていた桃のパフェの店に行くことにした。
予約時にわけもわからずコースを選択したら、席に通されてまず生ハムメロンが出てきた。続いてヴィシソワーズ、夏野菜とイカのサラダ……これは本当に桃のパフェが出てくるコースなのだろうか?にわかに不安になる我々をよそに、唐揚げ、エッグベネディクト、パスタ、豚肉を揚げたものが次々と運ばれてくる。「これ桃のやつなの?(間違えられてない?)」Mさんがついに代表してひとりごちると「桃のコースですよ」すかさず店員が答える。そうなのか。しかもこれからタイカレーを出すという。パフェのボリュームがあるという事前情報だけはあったので、警戒したMさんはエッグベネディクトと豚肉を私に譲り、カレーは小サイズを選んだ。私は一級吸い込み士という肩書で呼ばれることもある食いしん坊なので、人の分のご飯を食べるのは得意である。自分のカレーは中サイズにしてなお、喜んでそれらをいただいた。果たして、パフェは来た。
福島県の「あかつき」という桃を見える範囲だけでまるっと6個は使っているだろうか。アイスクリーム、ババロア、ジュレと私が「パフェの流動食」と呼ぶ部分も松明でも灯りそうな大きなグラスにたっぷりと盛られている。通常4人シェア想定のものに予定外のどっしりコースで腹をくちくしてから挑んだので、吸い込み士への分け前が多かったことは想像に難くないだろう。大変美味しく桃を堪能した。
パフェの話を展開させてもいいのだが、今回は食後にKさんがテーブルに並べたものについて言及したい。
「たまにはおそろい、どうかしら」
色違いのイヤリング3セットである。
この店に来る前、Kさんと私は映画を見ていたのだが、映画館からの移動中、駅前にクリエイターズマーケットのような出店がいくつも出ていた。ハンドメイドのアクセサリーや雑貨を作者自らが売る同人誌即売会のようなものである。急に立ち止まったKさんはおもむろにイヤリングをひとつ手に取り、私の耳に当てた。「今日のお召し物にとってもお似合いですよ」熟練した店員のように言う。出店者と結託して物が売れればマージンが入るサクラなのかと思うような流暢な勧め方であった。私は普段耳に装飾などしないのでそれだけでは財布を出さなかっただろうが、Kさんの「3色あるし、3人でおそろいにしない?」に撃ち抜かれた。おそろい、少女時代に引き戻されたかのような響き、親密の証、記念度がぐんと増す特別な言葉。学生時代に韓国に滞在して、現地で仲良くなった女の子に雑貨屋で「オナジモノカイタイ」とカタコトで伝えたら、一緒にいたその子の彼氏は「何言ってんだこいつ」と首を傾げていたのに、彼女は何のことかピンと来て頷いてくれた思い出がふとよぎる。大人になると食べるものなどが被ったときに「おそろいだね」と言うことはあっても、趣味の異なる複数人が能動的に購入するアイテムを揃えることは珍しいのではないか。この感情をなんと表現すればいいのだろう。イヤリングを見たMさんの第一声は「エモい」であった。そうか、これがエモいか。
こうして、私の耳には青いガラスが揺れることになったのだった。
桃が! 桃が!
返信削除「普段自分じゃ買わないけど大切なエピソードと共に入手した装飾品」って、特別感が違いますよね。これが……エモいってやつか……!
いいなー!潤いが滴っている……!
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