健康で文化的な最高の生活
おばけキャッチおばけこと魔王ひじきが倒れ、復活の儀を目前にしてやまおり亭が沈んだ…… まっさきに体調を崩したものの軽症ですんだ草群は激動の人事により猛ダッシュ綱渡りを強いられ、気づけばもう師走である。 おい、師走じゃなくても走ってるぞこちとら。 とはいえ、みんな元気になってよかった。 職場に遅くまで残ることは減ったが、裁量が大きくなったことで時間の密度が上がり、平日はもうへとへとになって帰っている。でもあれです、日々スケジュール調整との戦いで緊張状態は続いているが、嫌な圧力がなくなったので精神的には楽。 崖っぷちを満面の笑みで駆け抜ける変態とは私のことだ。 やまおり亭さんにお誘いいただき、ひじきさんと三人で「長崎蝗駆経(ながさきむしおいきょう)」というお芝居を観た。 役場の地下にある劇場、さすが下北沢というところから始まって、一歩踏み入れれば壁一面のバッタ、演出家の軽快な開演前口上、そしてベンと鳴る琵琶の音。 大量発生したバッタ、つまり蝗害に立ち向かう人々の群像劇。シン・ゴジラみたいなかんじかしらと思っていたら、ある島に虫を操る一族がいるという。因習の気配に薄ら寒さは覚えつつも唄に踊りにとぐんぐんテンションが上がって、しばらくは笑ったり驚いたりしながら劇中で操られるバッタの大群のごとくぐるぐると没入していった。 やがて話はどんどん生々しく、業深くなっていき、べろりと剥き出しになった真相とがらりと変わる人相、あまりの落差に息を呑んだ。 人ってこんなに変わるんだ、と思った。 演技だとわかっていても恐ろしかった。 月並みだが役者ってすごい。そして、この体験は舞台でないと難しいだろう。画面越しではあの狂乱、あの慟哭は伝わらない。生の声の迫力を全身で浴びて、しばし呆然としてしまった。 誘っていただいてよかった。誘われでもしないと休日は家でダンゴムシのように丸まっているか、手近なものを飲み食いしているだけの草群である。 観劇の翌週は例によって文学フリマで、私は久しぶりに出店を見送ったので気楽なものだった。ひじきさんとやまおり亭さんのところへ「調子はどうじゃ」と冷やかしに行ったりしながら、いつもはどスルーする評論やノンフィクション系のエリア(いわゆる文芸じゃないならコミケでいいじゃんかと思ってこれまで目の敵にしていた)ももれなく巡ることができ、うっかりいろいろ買い込んでしまった。...