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昼からビール、からのうたた寝

七月には仕事も落ち着くとか言ったのはどこのどいつだ! とかいってまだ六月末ではあるのだが、紫陽花こそ咲いているものの雨はざざっとしか降らないしやたらと暑い日が続いている。私にとって、気温の記憶は陸上競技場の朝の空気と分かちがたく結びついていて、まだ人影もまばらな大空間に立ったときに肌を撫でるあの風はこんなに熱っぽかっただろうかと振り返る。 もう十数年前のことだ。この十数年のあいだに、夏はずいぶんせっかちになり、幅をきかせるようになった。春や秋のなんと肩身の狭そうなこと。 取引先の無茶振りにキレ散らかし、なかなか返事のこない相手に丁寧かつ圧の強い連絡を入れ続け、いまいち的はずれな後輩の提案にばさばさと赤を入れながら、 「ああ〜どっか行きたい」という欲求が募りに募った六月。 本当は旅に出られるはずだったのだが急な出費でそれどころではなくなり、自宅に縫い付けられてしまったのがいっそうきつかった。 そこへ、高円寺の書店・読夢の湯がまた即売会を開催なさるという。 ひじきさん山折亭さんが直近で出展されていて、くたびれた現代人に癒やしをもたらすまったりイベントということは聞いていたし、すぐ下のたこ焼きもずっと食べてみたいと思っていたし、なんか「外に出る」休日が必要な気がしたので勢いでポチった。 ら、お席が用意されたのである。 抽選になったと聞いていたので、これは本当にありがたかった。 そんなヨムフリ高円寺vol.8は、レジカウンターに並べられた出展スペースくじからはじまった。 出展者は一回につき8名。店主の心配りにより開会前の自己紹介から始まって、緊張した面持ちの面々も開幕早々にきてくれるお客さんと「ちょいとビールを」と立ち上がる出展者の動きでじわじわほぐされていく。今回は日記やエッセイを書く人の比率が多かったこともあり、あやしげな隣人と共存する小説(語弊)も面白く捉えていただけたようすで、私の拙い作品紹介も辛抱強く聞いていただけてありがたかった。 そう、まったり空間だから慌てる必要もないのである。世間話をしつつ、思い出したように本の話もして、興味が向けば手に取ってもらう。思い残しがないイベントだな、と思った。コミュニケーションに無理がない。出展者同士でもお客さんともいろんな話ができて面白かったな、と心から思えたのは久しぶりだ。テンション上げてガツガツいく元気はないけどなんかじっ...

ピリオドの法則

11年振りに、集団に所属して仕事をすることになった。 所属なんて大仰な書き方をしたが、正しくはやることが少し多いだけのアルバイトだ。とはいえ、ずっとフリーで仕事をしてきた身としては、社内のメーリングリストに取得したての社用アドレスが追加されたり、機材の申請をしたりなんだり……それだけで、なんだかそわそわしてしまう。新社会人になりたての頃のような心地だ。実際、ぴよぴよの新人であるわけだし。この歳になっても新人をやらせてもらえるとは。ありがたいことです。 慣れない作業に追われる中、冬から放置していたウール靴下の続きを編んでいる。 黒いあったか手袋を編むために毛糸を3玉ほど買いにゆき、ユザワヤの魔力によって10玉入りの大袋を持ち帰ったのが昨年のこと。手袋は無事、冬のうちに編み上がったが、余った玉で作り始めた靴下が大変だった。 というのも。当時の私は知らなかったのだが、靴下というのは編み物の中でも、制作に中~上級のスキルを要するチョットムズカシイ衣類であるのだそうだ。履くあてのないミニサイズの靴下を編んだことこそあれど、普段使いすることを前提に人間サイズのものを編むのは初めてで……そんな初心者がわけもわからず編み始めたものだから、それ相応の時間がかかった。最初の片足を編み上げるまでに、覚えているだけでも3回は失敗作を解いている。 難儀しつつも片足をやっつけ、もう片方を編み始め、春めいてきたことを理由に放置して暫し。梅雨が近づくにつれ気温が下降し始めたのをきっかけに、また手を付け始めた。そうして驚いた。 最初に編み上げた片足と比べ、次に編み始めた足の方が、明らかに目が整っているのだ。ありていに言えば上達を感じる。たとえば文章なんかは「ピリオドを打つたびに上達する」と言われたりするけれど、この法則は編み物にも通ずるのかもしれない。たぶん、糸を切るたびに上手くなる。 上手くなると、楽しくなってくる。このまま編み上げると、なんだか片方だけよれっとした奇妙な靴下が完成してしまいそうだけれど……糸始末を終えて水を通すころには、それもまた一興と思えるようになっているだろう。