重鎮の貫禄
井の頭自然文化園のそばで、たぬきを見かけた。
通り沿いの茂みからくりっとした目でこちらを見つめてくるその生き物を、最初は野良猫だと思った。このあたりは野良猫が少ないので、珍しいものだと思いながら通り過ぎようとしたところ、どうにも猫ではない。なんだか顔が横に長く、ふさっとしている。ちらりと見えるしっぽもなんだか……もふもふ……あっ猫じゃない、たぬきだ!
驚いている間に、たぬきはトトトッと――実際には「とてとてととと」くらいの速度で――どこかへ消えていく。人間と鉢合わせたというのに、なんだか妙にのんびりとした歩調が印象に残った。
帰宅してから調べたところ、東京の町中で見かける野良たぬきは捕獲も駆除も必要のない生き物らしい。何故ならたぬきは、東京での暮らしという点において我々人間の先達であるからだ。
なるほど。あの印象深いのんびりとした歩調は、ずっと前からこのあたりで暮らす重鎮の貫禄が滲み出たものであったのか。
たぬき先輩には及ばぬものの、私とてこの町での暮らしはそこそこ長い。先ほど遭遇したときはうっかり「アッ」と声を上げてしまったが、次からはそっと目礼して静かに通り過ぎるくらいの威厳を見せてゆきたいものだ。
たぬき先輩!
返信削除大田区の知り合いの家の庭にも親子で出るらしいです。
私も目礼の素振りしておこう。