ボヤンコ

昨夜やむなくてっぺんを超えて、今日の午前3時。とうとう今年最後の仕事の〆切をなんとかした。

年明けにもぽつぽつと〆切があるので以降もゆるやかに作業は続いてゆくし、始点が私にある類の仕事は納めるもなにもないのだが、ともあれ外部と連携を取って進めねばならぬ年内のアレコレはこれにておしまい。事実上の仕事納めである。

早朝にここまで書き、耐えきれず眠り、もそもそと起き出して今、日記の続きを書いている。

ここ数日は仕事ばかりしていたので、今週頭の話をしようと思う。

先日、とあるカフェ&ギャラリーさんから原画展のお知らせ葉書を頂戴した。店の名には覚えがあった。数年前に画家・スズキコージさんの原画展があるというので伺い、小さな原画をひとつ購入した店だ。その折、来訪者リストに名と住所を記したことをぼんやりと覚えている。

そのギャラリーで、今年もスズキコージさんの原画展が開催されるのだという。

私がスズキコージさんを好きになったきっかけは、幼稚園児の頃に読んだ『大千世界のなかまたち』という絵本だ。

『大千世界のなかまたち』はこの世界に暮らす、ふつうの図鑑には載っていないような“なかまたち”をイラストと共に解説する絵本である。私はこの中で紹介されている〈ボヤンコ〉という生物が大好きだった。

幼稚園児というのはことあるごと、大人に将来の夢について尋ねられるものだが、あの頃の私の将来の夢はこのボヤンコであった。それを大人たちに直接伝えると差し障りがあることは子供ながらに理解していたので、無難に「本屋さん」とか「リボン屋さん」とか答えていた記憶もある。

さて、ボヤンコとは何か。

ボヤンコはいつも、暖かい地域で暮らしている。背中の食料壺にしっぽをつっこんで好きなときに食べ、あくびなどしてごろごろし、今いる場所が暖かくなくなったら、ちょうどよい気候をもとめて動き出す。そういう生物だ。(どんな見た目をしているかは、ぜひ絵本を入手して確認してほしい)

私は幼い頃からボヤンコになることを夢見ていた。そのはずなのだが、なんだかここ数年やけに勤勉である。昨日、というか今日だって午前3時まで働いてしまった。

確かに、かつて幼稚園児であった私は大人になるにつれ賢くなり、いかに成長したとてボヤンコになるのはやや難しそうだと理解した。ゆえに今は考えを改め、ボヤンコを来世の夢と定めている。

考えを改めはしたけれど、ボヤンコになる夢を諦めたわけではないのだ。だというのに、こんなふうに勤勉に生きていたら、来世でボヤンコになれないかもしれない……この日記を書きながら、その可能性に気づいてしまい慄いている。来年は〈勤勉にならぬこと〉を目標とし健やかに生きてゆこうと思う。いまそう決めた。

葉書で連絡を頂いたスズキコージさんの原画展だが、勤勉たるがゆえに仕事を優先しつつ会期の中盤に向かったところ、私がほしいと感じた原画はおおよそ売却済みとなっていた。

あまりにも悔しい。私が今生にてすでにボヤンコであれば、会の初日に出向き、人生を共にするアレやソレを手に入れられたのかもしれないと思うと!

この日記を書くにあたり調べてみたところ、『大千世界のなかまたち(福音館書店)』は残念ながら絶版となり、今は『大千世界の生き物たち』と改題して架空社という出版社さんから刊行されているらしい。改題版からはカラーページが消えているかわり、加筆があるとか、ないとか……わたしの来世であるボヤンコは、まだそこにいるのだろうか?

原画を買うために用意していたお金も宙に浮いていることだし、この期に改題版を手に入れるのもいいかもしれない。

コメント

  1. スズキコージさんの絵、特徴的で絵本も読んだことある気がするけれど記憶が……ボヤンコがどんなだか見てみます。やまおり亭さんは勤勉にならないと言いつつ、外から見たら十分勤勉だよ……って思われるタイプだと思います笑

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